医療スタートアップのCureAppが開発した禁煙治療用アプリの公的医療保険適用が今月からスタートした。12月1日に保険収載されたのは「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCO(一酸化炭素)チェッカー」(以下、CureApp SC)。今年8月に医療機器としての製造販売の承認を得ていた(関連記事:CureAppの禁煙治療用アプリ、保険適用を中医協が了承)。

 CureApp SCは、患者用アプリと医師用アプリ、COチェッカーの3つで構成され、患者がアプリに毎日計測した呼気CO濃度や喫煙状況、アプリからの質問への回答などを入力すると、それに応じた治療指導やガイダンスがリアルタイムでアプリに配信される。ニコチン依存症の喫煙者に対する禁煙の治療補助と位置付けられており、標準的な禁煙治療プログラムの中で、禁煙補助薬の「バレニクリン」と組み合わせて使う。

 治療用アプリの保険適用は国内で初めて。それゆえ、どれだけの保険点数がつくのか、注目を集める中、厚生労働省が先月決定した診療報酬は2540点(2万5400円)だった。医師がアプリを処方した1回に限り算定できる。

 つまり、この治療用アプリを利用する場合、患者は標準的な禁煙治療を行う際に算定するニコチン依存症管理料に加えて、自己負担額にして8000円弱(3割負担の場合)を初回に一括して払う必要がある。その負担をどう感じるかで、CureApp SCの普及度合いも変わってくるのだろう。

時間切れで既存技術料を準用

 さて、今回初の保険適用となった禁煙治療用アプリについて、筆者が注目したのは、診療報酬の付け方だ。CureApp SCを使った場合に算定できる点数は、上述の通り2540点だが、厚労省によれば、その内訳は下記の二つを足し合わせたものだという。

(1)在宅振戦等刺激装置治療指導管理料の導入期加算を準用
   140点(1400円)
(2)疼痛等管理用送信器加算を準用(4回分)
   2400点(600点×4、2万4000円)

 (1)にある「在宅振戦等刺激装置治療指導管理料の導入期加算」とは、患者が自分の意思に反して手足が震えてしまう(振戦)等の不随意運動を示す際、脳深部等に振戦軽減のための装置を植え込んで指導を行う場合に、初回に限り在宅振戦等刺激装置治療指導管理料に上乗せして算定できる点数。(2)にある「疼痛等管理用送信器加算」は、在宅療養患者の疼痛除去等のために装置を植え込んだ後、疼痛管理のためのプログラムを送信する機器類を使用した場合に、在宅療養指導管理料に上乗せして算定する点数だ。

 (1)が患者への導入教育に対して算定する点数で、(2)が機器使用代に相当するわけだが、どちらも禁煙治療とは全く関係がない。それもそのはず。今回の禁煙治療用アプリの診療報酬は、厚労省の説明にある通り、これらの点数を「準用」したものだからだ。

 治療用アプリは新しい治療法のため、本来であれば保険適用における新たな分類等が必要になるとみられる。だが、今回はその議論を詰める時間的余裕はないこともあって(注:現在、慣例として、医療機器は企業が保険適用希望書を提出してから数カ月をめどに保険適用するルールが採用されている)、既存の技術料が暫定的に準用されるに至った。

 もっとも、保険適用を承認した中央社会保険医療協議会の議論では、診療・支払各側から、治療用アプリの保険適用についてのルール化を求める声が相次いでおり、次回以降の診療報酬改定において、新たな診療報酬枠が整備される公算が大きい。

 では、実際にどんな整備がされるのか。

新たな報酬体系のヒントはある報告書の中に…

 そのヒントとなるのが、公益財団法人医療機器センターが今年8月にまとめた、ある報告書だ。同センターに設置された、有識者13人からなる「デジタルヘルスの進歩を見据えた医療技術の保険償還のあり方に関する研究会」が作成したもので、デジタルヘルスの特性を踏まえた新たな医療技術の評価のあり方について提言している。

 一財団の提言内容が、国の方針として採用されるのか、疑問に思う向きもあるかもしれないが、同センターは医療機器に関するわが国唯一の中立的な機関で、調査結果や政策提言等は国の施策に適宜生かされている。

 今回の研究会メンバー13人の中には、国の医療機器政策を所管する厚労省医政局長のOBや、同省の元医系技官で、保険局医療課、医政局経済課等に在籍した、診療報酬・医療政策に精通する人物も参画しており、その議論の中味には厚労省も大いに注目していたもようだ。内々では適宜情報交換もされていたとみられる。

 今回の報告書の肝は、デジタルヘルスに関する医療技術の保険償還として、アウトカムを軸に据える評価法の導入を挙げている点だ。

 そもそも診療報酬は、医療の質に応じて決められているが、一般に医療の質を評価する方法としては、良い診療を受けるための設備や人員がそろっているのかを見る「ストラクチャー評価」、医療者により実施された診療やケアが正しく行われているのかを見る「プロセス評価」、そして診療・ケアにより実際に得られた効果を見るアウトカム評価の三つがある。

 現在の診療報酬は圧倒的にストラクチャー評価が多いのが実態。例えば、看護職員1人に対する入院患者の人数の割合などによって、入院基本料は数段階に分かれている。また近年は、「良い医療」の標準である診療ガイドラインの策定などが進むことによって、プロセス評価も相当増えつつある。

 一方、アウトカム評価の導入はごくわずかで、主だったものは数個に限られる。その理由としては、状態がほとんど変化しない病態や、治療効果を見る良い指標が存在しない疾病にはアウトカム評価の導入はもともと困難であることに加えて、いわゆるクリームスキミング(いいとこ取り)が起きて、医療機関が治りやすい患者だけを集めてしまう懸念もあるため、厚労省はこれまで導入に慎重な姿勢を見せていた。

 ただし、逆に言えば、診療や指導による改善が期待され、かつ治療効果を見る良い指標がある疾患で、別途クリームスキミングが起きないような方策が講じられていれば、アウトカム評価導入への障壁はない。

 報告書ではそうした点も考慮に入れた上で、デジタル機器のアウトカム評価としては、治療効果そのものはもちろん、患者の利便性向上や医療従事者の負担軽減といったところにも着目すべきと主張。デジタル機器の導入による医療費抑制効果も踏まえ、その分を既存点数に上乗する形で評価する、新たな報酬体系のイメージを描いた。

 さらに、提言はそれだけにとどまらない。

厚労省がこの先どれだけ機動的な対応をできるか

 将来的には、当該医療機関が診療を行った患者のある一定期間における健康アウトカムを評価し、成績の良し悪しで、加減算する仕組みの導入も主張。保険者から医療機関に診療報酬が支払われる際に反映させるなどの手法を取る。

 デジタルヘルスに関する医療技術については、データの収集に対して親和性が高いのは言わずもがな。従ってアウトカム評価に適しており、この報告書を受けて、どうやら厚労省内部では本格的なアウトカム評価の一穴にできれば、との意向も働いている模様だ。

 さりとて、新たな報酬体系の導入は一筋縄ではいかない。直近の事例を挙げれば、医療技術評価の一環として、医薬品と医療機器を対象に費用対効果を評価する新制度に関しては、2012年に議論が開始されるも、本格実施は2019年で、計7年もの準備期間を要した。

 もし同様にこれほど時間がかかるようでは、企業側の新たなデジタル機器開発の意欲がそがれることにもなりかねず、そのダメージは計り知れないだろう。厚労省がこの先どれだけ機動的な対応をできるかが注目される。


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