試作機は携帯用の魔法瓶サイズ

 検査装置の試作機は、携帯用の魔法瓶ほどのサイズ。バッテリー駆動も可能という。

試作機。魔法瓶サイズの大きさだ

 この装置では、「中赤外光」を使っているのがポイントだ。しかも、その発光レーザー光学系の小型化を実現している。

 一般に光による血糖値測定では、分子を透過または反射する光が、分子の種類や状態によって特有の波長で光を吸収する特性を利用する。この現象は古くから知られており、1990年代以降、数多くのベンチャーや大企業が、血糖値の体外診断に挑戦してきた。

 赤外光(赤外線)は波長によって性質が異なるため、近赤外光、中赤外光、遠赤外光に分類される。国際標準化機構(ISO)では、0.78μ〜3μmを近赤外光、3μ〜50μmを中赤外光、50μ〜1000μmを遠赤外光と分類している。

 近赤外光は半導体レーザーやハロゲンランプなど強力で扱いやすい光源を低コストで入手できるため、これまでの光学的血糖値測定はほとんどが近赤外光で行われてきた。

 しかし、ブドウ糖の近赤外領域での吸収波長である1μm付近は、ブドウ糖濃度が126mg/dL(水から健常人の空腹時血糖値の正常上限値までの変化に相当)増減しても、吸光率は約0.4%しか変化しない。また血液中に含まれる脂質などや水の吸収波長も近いため、統計処理でノイズ成分の影響を除去する必要がある。

 一方、中赤外光ではブドウ糖の分子振動による光吸収が強く、他の物質の影響も少ない。このため、高い精度での検出が期待できる。

 しかし半導体レーザーを含め、中赤外光を直接発光できる強力な光源はほとんどない。これまでにも中赤外光の有用性に着目した血糖値測定の研究開発はあったが、ニクロム線ヒーターや人体が発する微弱な中赤外光を用いていたために輝度が低く、十分な信号雑音比(S/N比)が得られず、高精度の血糖値測定は困難だった。

 山川氏らは、超小型の固体レーザー発振器と光パラメトリック発振器を開発、これらを組み合わせて中赤外光を発光する方式を採用した。固体レーザー発振器は、特殊な鏡ではさんだ人工結晶に強い光を当てることでレーザー光を発生する。宝石のガーネットと同じ構造の「Yb:YAG」と呼ばれる結晶を用い、光源としては半導体レーザー素子を採用した。

 光パラメトリック発振器は、光の波長を変換する装置で、特殊な結晶に外部からレーザー光を当てると、別の周波数の光を発する。今回開発した装置では、固体レーザー発振器の波長約1μmのレーザー光を入射し、中赤外領域におけるブドウ糖の吸収波長である約9μmのレーザー光を発振する。

 得られたレーザー光を指先に毎秒数100回照射し、反射波を捉えることで、3〜5秒で血糖値を測定できるという。測定器としての精度は、自己血糖測定器の許容精度としてISOが定めた基準であるISO 15197-2013(血糖値100mg/dL未満では±15mg/dL以内、100mg/dL以上では±15%以内)を満たすことができた。