「まさにバイオマーカーの宝庫」

 マイクロRNAは生体高分子であるリボ核酸(RNA)の一種。生物によって異なり、人間ではこれまでに2655種類が見つかっている。

 分子のサイズを表す塩基数は18から25で、人間の遺伝子の平均サイズである約2万7000などと比べ、極めて小さい。しかし、この小さなマイクロRNAが、人間の遺伝子の少なくとも1/3の調整に関わっていることが明らかになってきた。

 マイクロRNAは、エクソソームと呼ばれる粒子に入って血液中に放出される。その数は1mLあたり約5000億個とされ、血液だけでなく、尿や腹水、涙などあらゆる体液中に存在する。

落谷氏(写真:皆木 優子、以下同)

 エクソソームにはマイクロRNAのほか、DNAや膜タンパク質などが含まれる。東京医科大学医学総合研究所教授でマイクロRNA測定技術開発プロジェクトのリーダーを務めた落谷孝広氏は、「(エクソソームは)まさにバイオマーカーの宝庫」だという。製薬会社もマイクロRNAやエクソソームに注目しており、今後、創薬の中心的なターゲットの1つになっていくと期待されている。

 前述のマイクロRNAプロジェクトでは13種類のがんを探索した。胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫がその対象。

 国立がん研究センターに集積され、バイオバンクに登録された血液検体から、乳がん2400例、大腸がん3300例、胃がん3200例、肺がん2700例など、がん患者の検体を登録した。研究に不可欠な対照群については、国立長寿医療研究センターのバイオバンクに登録されている認知症などだががんではない7000以上の検体を登録、2019年2月までに5万3000検体を解析した。

 その結果、女性の乳がんでは、5つのマイクロRNAの組み合わせで、感度97%、特異度92%で識別できた。「感度」とは、病気の人を正しく病気だと識別できる割合、「特異度」とは病気でない人を正しく病気でないと識別できる割合を意味する。

 この他、卵巣がんでは感度99%、特異度100%、膵臓がんでは感度98%、特異度94%、大腸がんでは感度99%、特異度89%など、高い精度でがん患者と健常者を識別でき、1次スクリーニングの検査方法として有用であることが示された。

 また、1次スクリーニングだけでなく、前立腺がんや乳がんなどで、他の標準的な検査によってがんの疑いが強まった患者に対し、マイクロRNA検査を行うことで、苦痛が大きい検査を受ける頻度を下げることができるといった成果も示されている。