長期の追跡調査でがん死の減少を証明したい

 今後、マイクロRNA検査が人間ドックや定期健診で用いられるようになれば、早期がんの状態で発見し、より心身の負担が少ない治療で健康を取り戻せるようになると期待される。

 ただし、早期発見率が向上しただけでは十分ではないという。落谷氏は、「例えば地域全体でマイクロRNA検査を導入し、10年間といった長期にわたって調査を続けた結果、がんの死亡率減少を確認できたとき、まさに有意義だと確認できる」と強調する。実際、導入に強い関心を示している地方自治体もあり、今後、強力なエビデンス構築が実現する可能性もある。

 マイクロRNAを用いた疾患予測マーカーは、がん以外の領域でも登場が期待されている。循環器領域もその1つだ。がん領域は既存のマーカーが数10種類あり、スクリーニングだけでなく、治療効果の確認などに用いられている。

 ところが循環器疾患の発症や進行を予測できるマーカーはほとんどない。がんは診断されてから数カ月から数年以上の余命が残るが、脳や心臓の疾患は唐突に生命を奪ってしまうことがある。重大な発作などが起きる前に発病リスクを予測できる意義は大きい。

 落谷氏らの研究グループは、血液中のマイクロRNAにより、脳卒中の発症者を高精度で識別できることを明らかにしている。「一定の年齢ごとに血管の老化を見るといったスクリーニングにより、多くの人の命を救える。心筋梗塞や末梢動脈障害(PAD)など、血管の交換などを必要とする深刻な状況に至る前に発見し、改善できる可能性はある」(落谷氏)とし、血管の老化を診断する科学的な指標の構築を進める考えだ。

 今後、マイクロRNA検査は、病気になる前の健康管理に応用できるかもしれない。マイクロRNAは、体内のバランスの乱れを捉えることで病気を発見する。落谷氏は、「こうしたバランスの乱れをさらに早い未病の段階で見つければ、健康な状態に戻すことができるのではないか」と期待する。

 例えばマイクロRNAをモニタリングすることで、最適な食事や運動を提案できる。データを蓄積することで、科学的な根拠に基づく健康法を確立できる。マイクロRNA検査が新たなヘルスサイエンスを構築する役割を担うかもしれない。

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