人工匂いセンサーは生物の嗅覚には及ばない

 線虫によるがん検査法「N-NOSE」は、かつて話題になったがん探知犬と同じく、がんを匂いで識別する。HIROTSUバイオサイエンス社長の広津崇亮氏は、線虫を用いたがん検査の有用性を紹介した。

HIROTSUバイオサイエンス社長の広津崇亮氏

 同氏は「医学的な検査に用いるセンサーデバイスに最も重要なのはノイズを排除し、目的の信号だけを識別する機能、すなわち感度と選択性だ。生物の嗅覚は、この感度と選択性が極めて高い。しかも複数の物質を同時に検知できる。人工匂いセンサーはすでに実用化しているが、生物の嗅覚には及ばない」という。

 線虫は、細胞数約1000個の下等多細胞生物で嗅覚細胞はわずか10個だが、イヌを超える多様な匂いを識別できる。しかも、好む匂いの物質には近づいていき、嫌いな匂いからは遠ざかる性質があり、匂いの検出を目視で確認できるというメリットもある。

 管理も容易だという。雌雄同体でクローン繁殖するため、遺伝的特性が変化しにくい、世代交代がわずか4日間で大腸菌をエサに寒天培地で容易に飼育できるなど、低コストで安定性も高い。また実験生物として長く利用されてきたため、生態についての膨大な知見が蓄積されていることも見逃せない。

 「がん探知犬」も高い精度でがん患者を見分けることができるが、イヌの育成や訓練は高コストで、健診に用いるのは現実的ではなかった。

 「がん検査には現在、1次スクリーニング、すなわち身長・体重や一般血液検査のように受診者全員が受けることができる検査が存在しない。低コスト・低侵襲な検査法であるN-NOSEを一刻も早く普及させたい」と広津氏は強調した。

臨床試験で線虫検査の高い精度が相次ぎ確認

 実際の患者の検体でN-NOSE検査の精度を調べた臨床試験の結果も報告された。

結核予防会新山手病院副院長・消化器病センター長の丸山正二氏

 結核予防会新山手病院副院長・消化器病センター長の丸山正二氏らは、ステージIIまたはIIIの消化器がん患者21例を対象に、手術前に尿検体を採取し、N-NOSEによる検査を実施した。その結果、膵臓がんの1例を除く20例で検査陽性となり、感度は95.2%と、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の20%以下(ステージII)から30-50%(ステージIII)に比べ、大幅に高かったことを報告した。

国立病院機構四国がんセンター消化器内科の灘野成人氏

 また、国立病院機構四国がんセンター消化器内科の灘野成人氏らは、2017年4月から2018年12月に自院を初診で受診し、胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝臓がんと診断された167例について報告。感度は全体で87.4%、ステージ0/1でも87.5%と、がんの進行度にかかわらず高く、早期がんの検出に有用である可能性を提示した。