地球上にありふれた生物「線虫」を使い、高い精度で体にがんがあるかどうかを識別する(関連記事)。1~2滴の血液を採取し、そこに含まれる「マイクロRNA」を調べることで様々ながんを高精度に検出する(関連記事)。こうした疾病の早期発見に関する技術革新が進んでいる。

これらの技術は、健康診断・人間ドックの現場側からはどう捉えられているのだろうか。今後の人間ドックの方向性と合わせて、日本人間ドック学会 理事長の篠原幸人氏に話を聞いた。

日本人間ドック学会 理事長の篠原幸人氏(写真:加藤 康)

学会としても検討を始めている

「線虫」や「マイクロRNA」などの技術の実用化が近付いてきています。これらについて、どう評価していますか。

線虫「C.エレガンス」(出所:HIROTSUバイオサイエンス)

 「線虫」にも「マイクロRNA」にも、とても興味を持っている。今後、人間ドックの中で使える技術になる可能性は十分にある。実際、学会としても落谷先生(マイクロRNA測定技術の開発プロジェクトに携わる中心人物)と一緒に検討を始めるなどしているところだ。

 ただし、これらの技術さえあれば十分、というわけではもちろんない。あくまでスクリーニング検査としての活用であり、その上で、必要であればしっかりとした検査をしなければならない。

人間ドックは岐路に立っている

これまでの人間ドックと組み合わせいくという方向性ですね。

 もっと重要なことは、これらの技術は、あくまで「早期発見」のためのもの。つまり、何かしらのカラダの異変が起こっていることを検知する技術だ。

 そのさらに前の段階、すなわちカラダの異変を起こさせないようにする予防医学の観点が、今後の人間ドックにおいて最も重視すべき点だと言える。そのために生活習慣や生活環境をどう変えていけるか、という領域まで入り込んでいくことが重要な方向性だ。

人間ドックの役割や方向性が大きく変わっていく、と。

 人間ドックは岐路に立っている。人間ドックは進化していく必要がある。その一つの方向性が「パーソナライズド人間ドック」だ。

(写真:加藤 康、以下同)

 つまり、個々人に最も適した人間ドックにしていくという方向性である。例えば、若い人が受診する人間ドックと、75歳以上が受診する人間ドック内容は同じでいいのか。これまでのように、画一的なやり方ではそぐわなくなってくる。年齢だけでなく、既往歴や生活環境、生活習慣などを踏まえてパーソナライズドしていく必要はあるだろう。

 その点で、遺伝子検査というものにも関心はある。今すぐに人間ドックに活用する、ということではないが、今後は遺伝学的な探索という観点も重要になりそうだ。

 他には、AI(人工知能)。見落としを防ぐために、画像診断にAIを取り入れるというのも、今後の人間ドックの方向性の一つと言える。

「認知症」も人間ドックの重要なテーマに

最近では、「歯」に着目した人間ドックも出てきています(関連記事)

 現在の一般的な人間ドックは、首から下が対象。つまり「歯」と「脳」が抜けていた。今後、歯科ドックや脳ドックと連携していくのは重要な方向性だ。

 今後は高齢者が増え、認知症が増えていく。しかし、今の人間ドックでは認知症はほとんどカバーできていない。「人間ドックでは脳は調べません、認知症は分かりません」ではなく、そこにも踏み込んでいく必要がある。

 認知症については、生活環境や生活習慣との関係が少しずつ明らかになってきている。さきほどの予防医学と同様に、そうした生活指導にまで人間ドックの役割を広げていくべきだろう。

(タイトル部のImage:adam121 -stock.adobe.com)