DNA分析の高速化で対応が限界に

 がんゲノミクスは、DNA分析の高速化と背中合わせで進歩してきた。DNAを読み取るシークエンサーの進化は著しい。ヒトゲノムを読み取るスピードは、全体を読み取るのに1990年代は10年近くかかったが、今や1日へと1万倍近く高速化。コストは20年で3000億円から5万円程度へと1000万分の1程度に激減した。高速化、低コスト化が一挙に進んだ。そうした中で、読み取った膨大な情報に基づいて、どう治療に役立てるかを考えるには、人の目でDNAの並び方を眺めていてはらちが明かなくなっている。

 これまでに世界中の研究者が、ゲノムの特徴と、そこから作られるタンパク質の特徴、さらにそれと関係する薬の特徴を報告してきた。そうした文献は2800万近くに上る。がんゲノムを解析した後、これらの現在までの文献と照らし合わせ、治療の次の一手を見いだす必要がある。従来、このプロセスを人海戦術で行われてきた。しかし、1人の患者のために費やす時間は週単位。東京大学医科学研究所附属病院の外来には100人強の患者が毎日訪れるが、その多くががん患者であり、入院患者もいる。がんのゲノムを調べて、それに基づいた治療の戦略を立てようとしても、とても対応しきれなくなっている。

 「がんのゲノムにおいてボトルネックになっているのは、読み取ったDNAの情報を“解析”して、どんな治療を持っていくのか“解釈”するところとなっていた」。そんな宮野氏の状況はAIの利用で大きく変化した。