がんとゲノムのボトルネックをAIの力を借りて解決しようというのが、前回紹介した東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟氏だった。AI分野では様々なサービスが勃興し、医療への応用が急拡大している。優れた技術を保有していれば、実績が少ない新参企業であっても市場での存在感を高められる。今回は、AI開発の新興企業の一つ、9DWの動きから、がん領域を含めた医療分野でのAI適用における課題や可能性を探っていく。

 AIは、第3次ブームが2010年ごろから巻き起こるまで長らく下火だったこともあり、開発に強い人材が日本に少ない。日本は「AI後進国」などとレッテルを貼られることも。だからこそ、「AI開発」の伸びしろが大きいと捉える企業もある。

AIは「マトリョーシカ」

 9DW(東京都港区、代表取締役:井元剛氏)は創業3年ながら、米マイクロソフトの日本法人に技術を認められ事業パートナーとして選ばれたほか、三井化学をはじめとした大手企業との協業も引き寄せてきた。そうした吸引力の源は、AI開発に特化した人材とAI開発をフックにした協業戦略だ。

 同社では、開発する主力のAIコアシステムを「IYO」と呼んでいる(表1)。特徴として打ち出しているのは、複数データの同時解析に対応させようとしているところだ。画像解析、音声認識、自然言語の理解などの多様なデータを扱えるように開発を進めている。

表1 開発する主力のAIコアシステムは「IYO」と呼んでいる。一般的にAIはできることにより、表の通り大きく4つのレベルに分類される。IYOは、学習の着眼点を人間が教えなくても機械が自ら判断して学習していく「深層学習」という最もレベルの高いものになる。(9DWによる、図1とも)

 一般的に、AI開発は、用途を絞った「特化型AI」が基本となっている。前回、IBMの「ワトソン」で見たような自然言語理解のほか、音声解析、画像解析などの特定の用途だけに対応するものとなる。井元氏はあえて他社にできていない「汎用型」AIを手がけることで差別化を目指す。社名を、9DW=「9heads Dragon Works」としたのも、9つの首を持つ伝説の竜である「九頭竜」から由来しており、マルチタスクに対応する自社AIを表したものだ。

 汎用型AIの開発は容易ではないが、必然的に井元氏らは高度なAIの開発を目指すため、AIの「頭脳」を手がける。「AIの頭脳を自ら手がける」というと当然のように聞こえるが、意外と既存の“AI開発企業”はそこまで手がけられていないと代表取締役の井元氏はみている。

 「AIの成り立ちは、ロシアのマトリョーシカのようなイメージを考えると分かりやすい。中心に『AIエンジン』があり、ここで数学的な処理を行い、機械学習などの処理が行われる。これは人工知能の文字通り頭脳となる。“AI開発企業”と名乗っていても、AIのコアシステムは他社のものを使って、『フレームワーク』や『ライブラリー』といったグーグルやアマゾンなどが用意した材料を組み合わせているだけであるケースも多い。出版される技術書も表層をなぞっているものばかり。本質的なAI開発を行って初めて顧客企業の課題に応えられると考えている」と井元氏は説明する。