前回は、大手企業のエンジニアとして人工知能(AI)活用に内側から関わってきた人物が、自ら起業してAI開発に打って出るケースを紹介した。医療分野におけるAI開発は内実、緒に就いたばかりといえそうだが、そんな中、デジタル技術が急速に存在感を増しているのが画像診断の領域だ。「CT・MRI大国」日本の豊富な画像データに着目し、医療用画像診断分野でのAI開発に取り組むベンチャーを訪れ、その勝算と課題、がん医療へのインパクトを探った。

 令和の時代に入り、画像診断技術は平成時代に比べて大きく様変わりしている。臨床医向け総合医療雑誌『日経メディカル』のページを遡ると、平成13年(2001年)の記事の中に、一度に大量の画像を撮影できる「マルチスライスCT」についての記述が目に入った。それを読むと、当時のCTを使った画像診断がどのように発達していたかを読み取ることができる。

 「マルチスライスCTの登場は、あくまでもCTの高性能化の通過点にすぎない。スキャンの高速化の開発も進められているほか、半年から1年後には16スライスが一度に撮影できる最新型のマルチスライスCTが実用化され、解像度が高い画像をより簡単に撮影できるようになる」

 かつて画像診断を行う装置の開発では、撮影される写真の「撮影スピード」、同時に撮影できる「枚数」、どれだけきめ細かく画像を写し取れるかという「解像度」など装置の撮影性能が重要視されていたことがうかがえる。

 今やこうした競争にしのぎを削る時代は終わった。画像診断装置の撮影性能が重要であるのは変わりない。ただし、もっと重要になっているのは、撮った画像の解析機能。そこで台頭しているのが、人工知能(AI)の活用である。

 1960年代から、コンピューターを使った医療画像の分析はCAD(コンピューター支援診断)と呼ばれて、海外で研究が進んでいたが、2000年代から応用され始めたのが「ディープラーニング」である。もともとは放射線科の医師で、Googleに移りディープラーニングの父と称されたジェフリー・ヒントンが、「放射線科の医師の育成はやめるべきで、遅くとも10年以内に医師の能力をAIが上回る」と話して、賛否を巻き起こしたのが2016年だった。

 現在、画像診断装置の開発の中心は、「AIを活用したCAD」になりつつある。そこで重要視されているのが、AIを学習させるための「教師データ」である。撮影した画像データと、それをどう解釈するかという答えが組み合わさったものだ。ライバルよりも先に大量の教師データを学習させたCADを開発しなければ、これまで大きなシェアを取っていたメーカーであっても、画像診断装置の市場から脱落しかねない。逆に言えば、教師データをいち早く取り込んだ者の先行者利益は大きい。医療の領域は、AI開発が始まったばかりであり、後発組にも下剋上のチャンスが広がる。

 そうした背景の下で、国内で台頭する企業の一つがエルピクセル(東京都千代田区、代表取締役:島原佑基氏)である。この企業はどんな課題を持ち、どんなビジョンを抱いているのだろうか。会社を訪ねた。