専門家の目線で事業を生み出す

 結論から言えば、AIメディカルサービスが“新参者”ながら、この分野で勝ち抜けると考える理由は幾つかありそうだ。

 一つは、経営者自身がクリニックを経営する医師であり、医療現場で実体験を積んでいること。事業の原点が内視鏡医療の壁をぶち破りたいという強い問題意識から来ているため事業のフォーカスが明確である。多田氏は、20年近くにわたって、自ら内視鏡を握って、消化器の病気を見つけ出す医療に取り組んできた。

 AI開発を手がけたきっかけは、ある種の「絶望感」だった。ホームページの冒頭にこう記す。「内視鏡は、日本が世界をリードしている先進の医療分野。ところが足もとでは病変見落としが医師によっては2割以上。大量の2重チェック負担で専門医が疲弊という現実。この問題にAIで立ち向かい、世界の内視鏡医療に貢献したい。食道・胃から小腸・大腸まで、がんを早期のうちに見つけ、壊滅できるようにしたい。そんな想いで創業したベンチャー」。言葉は淡々としているが、紛れもなく「疲弊」は自らの実体験である。

 多田氏自身はこう語る。「内視鏡で撮影した画像を目視でチェックしていくことに限界を感じていた。背景にあるのは、内視鏡の性能向上。かつてはアナログのフイルムが使われ、1人当たり20枚程度だった撮影画像が、デジタルのフイルムが一般的になり40枚、50枚と急増。撮影した画像は、医師が集まってダブルチェックするが、年間1万件近くの胃や大腸の内視鏡検査を手がけるクリニックで、その作業には無理が生じ対応は難しくなりつつあった。クリニックではダブルチェックのための読影会を開くが、通常業務が終わった夜にしか時間は取れない。医師の働き方改革が進む中でこのままでは破綻しかねなかった」

 そうした課題を感じていた2016年に出会ったのが、東京大学でAIの研究し、注目を集めていた松尾豊氏(現・東京大学大学院工学系研究科教授)。話を聞いて驚いたのは、「国内外問わず、内視鏡画像の診断補助についての研究開発を誰も手がけていなかったこと。CTやMRIはあったが、内視鏡はなかった」(多田氏)。そこで後輩の紹介でエンジニアを誘い研究に着手した。

 手がけたのは、ディープラーニングである。画像のどこに注目するかという特徴量から、コンピューターが設定し、その特徴量に基づき、病変を見つけ出すという、本格的なAI開発である。それが瞬く間に成果が出たのは大きかった。研究開発の着手からわずか4カ月がたった2017年1月、AIによって胃がんにつながるピロリ菌の感染診断をさせるソフトウエアを開発し、精度が医師の平均を上回ることを確認したのである。当初は静止画で処理していたのが、AIの処理能力が高いことから、動画リアルタイムに判定するソフトウエアの開発に舵を切る。手応えを感じたところで、2017年9月に会社を設立。2018年1月には、6mm胃がんを98%の精度で発見することに成功し、1画像を0.02秒で判定できるとする成果を発表するに至る。

図1●診断支援ツールによる表示(提供:AIメディカルサービス)
内視鏡画像(左)をAIが判定し、胃癌が疑われる病変の範囲とその確信度が提示される(右)。

 漠然と「AIを内視鏡画像に応用してみよう」ではなく、臨床現場での課題意識に裏打ちされていたからこそAI開発もスムーズに進んだのだ。