こだわりは大切だが、こだわりすぎないのも大切

 本蔵氏らは2022年に製品化の目標を置く。創業から6年、幾つかの転機について本蔵氏は説明する。

 一つは、DNAを読み取る基準を緩やかにしたことだ。DNAの鎖をトンネルに通していくが、もともと1nmという緻密なコントロールを行っていた。一方、あまりに細か過ぎると、製品にわずかなエラーがあっただけでも不良品と見なされる。事業とするには、不良品が多くなっては成立しない。コントロールする幅を20nmと余裕を持たせ、歩留まりを改善させることで事業性を高めた。こだわりは大切だが、あまりに縛られると成功は手から離れていく。

 さらなる転機は、半導体メーカーとの提携である。米国や台湾の半導体企業と協力して、半導体の基板の上にDNAを検出する電気的なセンサーを何億個も集積していく。性能を高め、原価も下げるために欠かせない連携となった。本蔵氏は「自動車で言えばF1を作るのではなく、汎用車を作るための体制は必要」と言う。自前主義で特注品を作るのではなく、競合も多いシーケンサーの市場でも勝ちにいける安価な製品をうまく出せる体制を整えていった。

 そうした中で、さらなる転機は、2015年に研究拠点を大阪から米国シリコンバレーに移したところだ。シリコンバレーは情報技術で有名だが、ゲノム解析でも有力企業が集まる。ゲノム解析の技術に長けた人材も豊富。必要な人員を拡充するために飛び込んだ。それはシーケンサーの事業化を近づけるためのチーム形成につながったという。米国の西海岸は、人件費や土地代の高騰などが言われ、一歩を踏み出すのはやさしいことではないはずだ。ベンチャーでありながら、そうした決断をするのは難しかったかもしれない。そこは、民間のコンサルティング会社に務め、米国での土地勘もあった本蔵氏の裁量によるところは大きかったようだ。

 本蔵氏は「近くに競合企業も多いが、ライバルというよりも、先方からすれば、買収対象であり、提携対象という世界になっている。自分自身も提携して共同開発してもいいと考えている。成功の定義は必ずしも自前主義ではなく、さまざまな可能性を考えている」と説明する。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる情報技術の大手企業などもゲノムの情報に関心を持っているという。ビッグデータとして遺伝情報が重要になる中、安価に自社のツールで遺伝情報を扱う仕組み作りは事業チャンスをもたらしてくれるのだ。

 こだわりは大切だが、こだわりすぎないのも戦略次第では大切になる。