ニーズをビジネスに、時間の節約に貢献

 竹本氏の発明を聞きつけた研究者から、研究支援が増え始め、徐々に対応が難しいほどに申し出が急に増えていくようになる。これを見逃さずにビジネスとして発展させたところは、セツロテックの先見の明と言っていいかもしれない。竹本氏は大学で同じ研究者だった沢津橋俊氏と会社を設立。沢津橋氏の元同僚が先述のように竹澤氏で、2016年から一挙に事業を展開させることになる。

 竹澤氏は「ゲノム編集は、当時も今も、ゲノム産業を変えるもの、50年に1度の大発明と見ていた。研究のための研究ではなく、人に役立てられるテクノロジーに必ずしたいという思いだった」と言う。

 2016年2月の事業への着手から、徳島という地方の利も生かし、徳島大学の認定ベンチャーとして選ばれる。2016年12月にはビジネスプランについて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「NEDO TCP 2016」と呼ばれるビジネスコンテストで最優秀賞を受ける。さらに、2017年4月、第2回日本アントレプレナー大賞北尾吉孝賞のほか、各種のビジネスコンテストの受賞も続いた。

 会社設立前後から準備し、2017年5年には、クリスパーキャス9の特許を持つ米ブロード研究所と知財ライセンス契約を締結。「最初はアプローチしても連絡がつかず、アポイントも取れなかった。効果があったのはSNSで、連絡を取ることができるように。その後、日本企業の協力も受けながら、何往復かの交渉の末に契約に至った」と竹澤氏は振り返る。竹本氏は研究者としての二足のわらじだったが、ベンチャーキャピタルからの出資を受けるに当たり竹澤氏は常任の経営者に就くことになった。

セツロテック代表取締役社長の竹澤氏(写真:寺田拓真)

 こうした基礎研究はなかなかお金を生み出すまでに時間がかかりそうなものだが、セツロテックではもともとあったニーズを膨らませることで滑走路を飛び立とうとしている。応用は医療のほか、食品や畜産など幅広い。

 セツロテックの技術は、がん医療の分野であれば、あるがんの遺伝子が分かった場合、その遺伝子が薬効に関係するのかを調べるために応用される。具体的には、受精卵の持つターゲットとなる遺伝子を改変して、その受精卵から生まれたマウスを企業に納める。ゲノム編集を使うことの強みはスピードだ。従来の遺伝子改変法を使った場合には、年単位で時間を要したのが、ゲノム編集を使うと、2、3カ月で済むのが大きい。時間の節約で、薬の候補を選抜が早まるので、それだけ早くから経営資源を有望なものに集中させられる。

 セツロテックは、ゲノム編集を中核の技術として、受精卵ばかりではなく細胞の遺伝子の改変を手がけたり、データ解析を行ったりして事業を成長させようとしている。さらに自動化のためにゲノム編集装置そのものの事業化も視野に入れるセツロテックの2019年1月期の収益は、決算公告によると7000万円強の赤字。早期の黒字化を目指す。

 2019年6月、竹本氏らの研究グループは、免疫関係の遺伝子を改変する技術で、世界的な科学誌であるScience誌に論文を発表。国際的な注目も集め、受精卵エレクトロポレーション法を武器に世界も見据える。阿波の企業が、がんゲノム分野を支える世界的なインフラ企業としての地位を確立することも夢ではない。

 次回は、ゲノム技術の世界に精通した研究者から近未来について聞く。

(タイトル部のImage:ipopba / Design Cells -stock.adobe.com)