胎児から墓場までのゲノムを読める時代に

 「胎児から墓場までのゲノムの情報を読める時代になっている」と西川氏。次世代シーケンサーの登場により、ヒトゲノムを読むのにかかる時間は、ヒトゲノム計画が完了した2001年までの13年間から、1日のうちに読めるように変化。コストも3000億円から10万円を切るまでになった。身近になるゲノムの情報を単に蓄積しているだけではなく、活用していくことが欠かせない。

 「ゲノム検査の次の段階は、患者さん自身が遺伝情報を持って健康サービスを受けられるようにすること」と西川氏は言う。海外では様々な動きが進んでいる。例えば、米国で電子化された患者記録を使って多くの健康サービスを提供しているゲイシンガー・ヘルス・システム(Geisinger Health System)という会社は、顧客が自分のエクソームの遺伝情報と健康情報を組み合わせて利用できる仕組みを作り上げている。2016年の時点で既にそうしたサービスを使える人が5万人にも上った。

 このほか英国では、100万人分のゲノムデータと健康情報を集める「UKバイオバンク」を推し進めて、既に50万人規模の情報を集めている。単に集めるばかりではなく、国内はもとより、海外からの研究対象としての利用も可能となっており、遺伝情報から身長を予測するユニークな研究から、脳の画像との関連性を分析して病気の診断に生かしていくなど、論文報告による活用が続く。遺伝子のデータを使い倒す動きが加速しているのである。

 西川氏は、ゲノムを多くの人が読む時代が来ると、社会の価値観も大きく変化すると、未来を展望する。

 がんの領域とは異なるのだが、例えば、世界では、思わぬ形で凶悪犯を発見できるような珍事も起きた。

 過去の強姦殺人犯人の体液から得られたDNAデータを、米国のGEDマッチ(GEDmatch)というDNA分析システムで分析したところ、犯人の情報は得られたなかったものの、犯人の親戚がデータベースから浮かび上がったのだ。ここから芋づる式に40年近くにわたる未解決事件の犯人が捕まり、2018年にニュースで取り上げられて大きな注目を集めた。

 それはどういうことかと言えば、データだけで血縁関係を割り出せるということ。世代を重ねてもゲノム上に共通の配列が必ず残っているためだ。米国でマイヘリテージ(MyHeritage)という企業の報告によると、130万人近くのゲノムのデータベースを使えば、データを見るだけで誰が親戚同士かを75%の確率で特定できるとということも研究から明らかになっている。

 「警察はこれまで捜査のためにお金をかけていたが、そうした問題をゲノムが一挙に解決してくれたことになる。そのほかの分野であっても、従来は考えもつかなかったことが起こる時代になる」と西川氏は指摘する。