『ネイチャー』が2015年から批判

 先述の通り、ここに厳しい目を注ぐのが『ネイチャー』だ。2015年12月、エディトリアルとして日本の新制度について疑義を呈した。エディトリアルなので、外部の寄稿者ではなく、『ネイチャー』編集部が自ら意見を表明しているのはポイントだ。世界的な科学誌の総意として批判しているわけだ。

 その疑義の大きな理由は、「早期承認制度は患者に大きな負担を強いる可能性がある」という点だ。有効性が十分に示されていない治療に対して患者が治療費を支払うことになり、経済的な負担が無駄に発生する可能性を危惧する。従来の方法では、メーカーが承認までの開発費を負担して、リスクを負ってきた。『ネイチャー』によれば、その承認が条件付きかどうかにかかわらず、既に承認された製品のコントロールは容易ではなく、有効性が十分ではない治療に患者がだまされる可能性もあり、場合によっては損害を被るのではと疑問を呈している。

 さらに、2018年には、再びエディトリアルとして、澤氏らが進めている、心臓機能の落ちた患者への「ハートシート」と呼ばれる自家骨格筋由来幹細胞を使ったシートの早期承認に疑問を投げかける論文を掲載した。最初、脚から取った幹細胞を使ったが、続いてiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った治療を進めることについて、効果がはっきりしない段階で同時開発はやりすぎというふうに批判したのだ。

日本再生医療学会理事長の澤氏(写真:日経メディカル)

 2018年には、改めてエディトリアルで、脊髄損傷に対する骨髄由来の間葉系幹細胞移植による治療(ステミラック)が早期承認されたことについて、効果はランダムに治療群とプラセボ群を分けた上での比較試験で検証すべきだとの指摘が掲載された。

 一連の批判に関連して、『ネイチャー』には、日本国外の研究者はもとより、日本の研究者からも、「早期承認制度では効果が確認しづらいのではないか」という指摘が掲載された。

 さらに、2019年5月、『ネイチャー』に対して、厚生労働省医薬・生活衛生局局長からの「反論」も掲載された。脊髄損傷の早期承認について、他に治療がない中で比較試験は難しく、批判は妥当ではないと指摘するものだった。

 こうした海外などからの指摘はいずれも科学的な視点からなされている。主張には一理ある。

 例えば、今回の指摘に次のような事例が示されている。2008年、フランスの研究グループが、心臓の機能を回復するために、脚から取った筋肉の細胞を注射する研究を行い、結果的に、効果がないと結論づけたこともあった。この研究のポイントは、細胞を含まないプラセボの注射とも比べたところ、プラセボの注射でも心臓の機能は回復が見られていたところだ。比較試験をしない場合、治療をしなくても効果が出たのに、「治療効果あり」という誤った判断を導いた可能性もあった。

 こうした海外からの指摘は無視するのではなく、重く受け止めて、日本の取組について粘り強く説明して納得を得ていく必要はある。