「間葉系幹細胞」に力を注ぐ

 ヘリオスが扱う再生医療製品は大きく二つに分かれる。一つは、「iPS細胞」。iPS細胞とは、皮膚などの既に機能が分化した細胞を処理し、受精卵のようにどんな細胞にも分化し直せるように人工的に初期化した細胞である。ヒトiPS細胞の樹立に京都大学教授の山中伸弥氏が成功したのは2007年。5年後にノーベル生理学・医学賞を受賞。がん化のリスクなどが指摘され、その実用化には時間を要するかにも見えたが、前回述べた2014年に始まった条件付き早期承認制度により、実用化までの時間は縮まる方向になっている。

 同社が2011年に会社を設立した原点は、iPS細胞による目の難病の治療。その難病とは、「加齢黄斑変性」と呼ばれるもので、年齢を重ねるとともに、目の中で光を受け止める細胞である網膜色素上皮(RPE)細胞が減ってしまう病気だ。欧米では失明原因の1位であり、日本では欧米ほどではないが、失明原因の4位とされ、重要な問題であることには変わりない。

 ヘリオスは、京都大学iPS細胞研究所から提供された他人の細胞(他家細胞)から作製されたもの(他家細胞由来iPS細胞)を用いて、失われたRPE細胞を再生させようと研究開発を続けている。他人のiPS細胞には拒絶反応を引き起こす可能性があるなど課題もある。また、横浜市立大学より独占的ライセンスを受けたiPS細胞由来の肝臓の器官原基という、いわば「肝臓の赤ちゃん」を作り移植する治療の開発も進める。これも前臨床段階で、実用化まではまだ時間を要しそうだ。

 もう一つは「体性幹細胞」。血液を作り出す骨髄のほか、脂肪や皮膚などに存在して、様々なタイプの細胞に分化する能力を残している。iPS細胞のような人工的に初期化する必要はなく、採取した細胞を培養して治療に使うことになる。

 ヘリオスがいままさに大きく舵を切り、事業の軸をシフトしようと注力するのが、骨髄から作り出すタイプの「間葉系幹細胞」である。2016年に1500万ドル(日本円でおよそ18億円)の一時金を支払い、米国企業であるアサーシス(Athersys)とライセンス契約を結んで、間葉系幹細胞の日本国内での独占的な開発権を取得したのが大きな転機だ。

 製品名は「マルチステム(MultiStem)」といい、治療の対象は、日本の寝たきりの主要な原因である脳梗塞のほか、肺炎が悪化して起こる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と呼ばれる特に重いケース。ARDSは、発症すると半数近くが死に至るとされる。

 ヘリオスがマルチステムに注目する理由の一つは、その恩恵を受ける人が多いことだ。同社の推定によると、日本の脳梗塞発症者は年間23万~33万人。このうち重症となるのは13万人。脳梗塞は、発生直後に投与する薬としてtPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)があり、脳の血管に詰まった血栓を溶かすことで、後遺症を残さずに回復させる可能性があるが、tPAは発症後4.5時間以内に投与しなければ効果を発揮しない。ヘリオスはマルチステムを使い、36時間以内まで治療可能にしようとしている。ヘリオスによると、その治療対象となる可能性があるのは年間6.2万人に上る。

 一方で、ARDSも症状を抑えるだけしか治療法がない。病気を治す治療がなく、間葉系幹細胞による治療が可能となれば治療手段の空白を埋められる可能性がある。