転機は細胞をはがせたこと

 そもそも千葉氏がフルステムを創業したきっかけは、海外での再生医療の進歩を目の当たりにしたことだ。

 千葉氏の専門は脳神経外科で、再生医療の認定医でもある。2004年10月から2年間にわたって、米コロラド州立大学の研究室に留学していた。世界で初めて中絶胎児からの細胞をパーキンソン病患者に移植した研究室だ。ここで千葉氏は再生医療の研究が目覚ましく進歩を見せる米国の状況を知った。日本ではES細胞(胚性幹細胞)の利用を規制する方向で議論が進み、日米の差を感じて、「このままでいいのだろうか」という危機感にも似た思いを抱くようになる。

 帰国後、千葉氏は、脳神経外科医として研究にも当たっていたが、研究成果を生かした新しい産業の育成に関わろうと思い至る。手間、品質、費用の面で実用化に壁が立ちはだかっていた再生医療の世界を、不織布を使った細胞培養の効率化で変えようというアイデアは国内外の情報を集める中で得たものだ。沖縄県の再生医療の産業化事業の助成金を得て、2014年に研究に着手。国家戦略として産業振興が進められる地の利も生かせた。

 千葉氏は「不織布を使うと大量の細胞が培養できることは誰もが分かっていた。もともと細胞にワクチンを作らせる技術として使われていた。それを製薬企業でも応用を検討していたようだが、うまくいかなかった。問題となったのは、細胞が増えるのだが、不織布から細胞をはがせなかったこと。再生医療の場合には、ワクチンとは異なり細胞そのものが必要になるので壁となっていた」と振り返る。

フルステム代表取締役の千葉氏

 ブレークスルーは、不織布から細胞をはがす技術を確立したことだ。千葉氏は、米国留学でES細胞を使った実験を繰り返した経験も下地にして酵素を組み合わせて細胞を痛めずにはがすことに成功。それは2015年10月のことだった。本格的に事業として拡大させるべく、2016年8月に会社を設立した。国際特許も取得している。