前立腺がんの後の後遺症の治療に応用

 こうして千葉氏が再生医療に乗り出された背景の一つに、新しい制度の存在もある。再生医療等安全性確保法が2014年に施行されて、医療機関が細胞の加工や保存を企業に委託できるようになったことだ。医療機関は自前で設備投資をしなくてよくなり、再生医療の手がけ方が多様になった。これでフルステムのような小型の細胞製造装置が広がる見通しが立ったのは重要だ。

 こうした制度があったからこそ、千葉氏は沖縄徳洲会の南部徳洲会病院に呼びかけ、2018年4月に連携にたどり着くこともできた。南部徳洲会病院は、幹細胞を利用した再生医療を手がけようという考えを持っていたが、大きな培養設備の設置には至っていなかった。フルステムの新技術により背中を押された形だ。

 南部徳洲会病院で研究が進められるのは、前立腺がんの手術後の男性の尿失禁を治す治療だ。手術の後に、尿道括約筋と呼ばれる筋肉や神経が痛んでしまって、尿が漏れてしまうことが問題になっていた。再生医療の内容としては、患者本人の脂肪から取った幹細胞を増やして、注射により損傷を受けた場所に移植して再生させるというものになる。南部徳洲会病院を中心として4年間をかけて治療の効果を検証することになっている。

 この再生医療の実現にフルステムの新技術の貢献するところは大きい。同様な治療を実現するには、従来であれば、患者に対して全身麻酔を行い350mLという小さめのペットボトルほどの脂肪幹細胞を取り出す必要があった。それが新技術を導入することで、採取すべき細胞は10mL程度と大幅に少なくできる。取る細胞の量も少ないので、患者には局所麻酔を行うだけで済む。細胞が取りづらい高年齢でも手術可能になる見込みがあるのが大きい。この再生医療では、1cm3で1億個の細胞が必要だが、フルステムの装置で対応可能だ。