データ活用をてこに医療を効率化

 2018年には、日本脳神経外科学会が、冒頭で紹介した、脳卒中の救急の現場でのアプリ利用を研究することを発表した。新興企業が生み出したアプリに、主要な医学領域の代表的な団体が強力にバックアップする。異例の評価を受けた形となる。実際に、医療情報が離れた場所で容易に共有できる仕組みは高く評価されているのだろう。

 坂野氏は、現状の公的保険制度は非効率で、課題は多いと見て、インフラの充実をさらに進める。ゴールの一つには、個人の診療データを本人の手に戻すことがある。国は2018年に次世代医療基盤法を施行して、匿名化された医療情報を活用しやすくする制度を整備した。これに対して、坂野氏は「医療情報は、本来ならば個人に所属するものだろう。患者にデータを戻していくのがより妥当ではないか」と話す。診療データを匿名化して、そのデータを外部に利用させる考え方だと、診療データの所有者は医療機関ということになってくる。それよりも良い形があるのではないかと模索する。

 「診療データを活用したいならば、患者さん一人一人から同意を得ていくのが本来の形ではないかと思う。納得尽くでそのデータを使えるようにする仕組みがよいのでは」と坂野氏。そこで武器になるのは、Joinをはじめとしたアプリだと想定している。患者の同意を得て、患者が情報の提供先を決めることができれば、複数の病院にまたがって利用するような新しい医療が実現する可能性も見えてくる。患者の紹介はもとより、診療情報の共有、医療行為の重複の防止など、使い道は幅広く考えられる。まさしくデータとアプリが医療の効率化を推し進める形となる。

 アルムは、医師の中だけではなく、看護や介護にもサービスを広げる。医療機関が所有する診療データの活用をめぐっては多くの企業が事業化に向けて動いているが、患者同意取得や匿名化など課題が多く活用はなかなか進まない。その急速な事業拡大を見ると、アルムは医療機関に眠るデータの価値を呼び覚ます台風の目と言えるだろう。

 今回の取材では、坂野氏は、上場にもあまり関心がないように見えた。企業がより自由に産業に働きかけていけるという意味からは、その企業のあり方を考えても、現代らしい企業の形がここにあるかもしれない。

■変更履歴
記事初出時、脳卒中の疑いがある患者を搬送する際に、救急隊が使用する想定で開発されたアプリを「Fast-ED」と記載しておりましたが、2019年7月から「JoinTriage」に名称が変更されていましたので訂正いたしました。「アプリ上から問い合わせると、現在受け入れ可能な病院の候補が出てくる。」との記載は、「アプリ上で患者の様子を入力していくと、脳卒中の重症度をトリアージできる。トリアージ結果から患者に最適な治療(血栓溶解療法や血栓回収療法など)を行うことができる推奨医療機関の候補が出てくる。」に訂正いたしました。また「海外では12カ国での展開も始まり、」とあったのは、「海外では11カ国での展開も始まり、]の誤りでした。

(タイトル部のImage:Sashkin / rost9 -stock.adobe.com)