新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に翻弄されて1年。この感染症について世界的に研究が進み、子どもは大人より重症化リスクが低いことの裏付けが取れつつある。しかし、意外なところで子どもの心身の健康が脅かされているという。かずえキッズクリニック院長で小児科医の川上一恵先生に話を聴いた。

 「コロナ禍で乳幼児健診や予防接種のタイミングを逃すケースが散見されます。親御さんに来院しなかった理由を尋ねると『病院に行くと、うつされそうで怖かった』。院内感染のニュースを観て怖くなったのでしょうね。でも、医療機関では健診や予防接種と、風邪などの可能性がある子どもの診察とは分けて対応していますし、そもそも健診も予防接種も子どもの成長と発達のために必要不可欠なもの。コロナだけを過剰に怖がらないでほしい」

 こう呼びかけるのは、かずえキッズクリニック(東京都渋谷区)院長の川上一恵先生だ。

かずえキッズクリニック院長 川上一恵先生(写真:佐藤 久、以下同)

 乳幼児健診や予防接種は子どもの成長・発達を踏まえてスケジュールが定められている。乳幼児健診では健康状態や栄養状態、成長や発達、先天性疾患の有無などを総合的に診ており、例えば発達性股関節形成不全などは生後半年までに発見できれば、治癒の可能性が広がるという。逆に、タイミングを逃せば、それだけ将来にわたるリスクを抱えかねないというわけだ。

 また、予防接種にしても、その月齢・年齢で罹りやすい疾患や対策すべき疾患を予防するべくスケジュールが組まれている。日本脳炎や肺炎球菌による髄膜炎などは予防接種が広まったことで感染者数が減り、話題に上ることが少なくなったが、地球上から撲滅したわけではない。水疱瘡や結核も同様で、人々が忘れたころに流行してしまう。対策すべき感染症はCOVID-19だけではない。

 「予防接種で防げるものは防ぐべきです。最近は受診控えが減ってきたけれど、健診や予防接種がまだの人がいたら、かかりつけ医に電話してほしい。タイミングがズレていても医療機関は対応するし、電話をすればそれぞれの医療機関の感染対策を知ることもできます。若い親御さんには電話が苦手な人も多いので、当クリニックではFacebookやLINEも使って情報を発信しています。一人で抱え込まないで、いつでも相談してください」(川上先生)

警戒すべきは子ども同士の接触よりも大人の会食

 COVID-19流行から1年が過ぎ、感染症の病態やウイルスの特性などが徐々に明らかになってきた。子どもに関しては、我が国では当初から感染者が少なかったが、各国からの論文が出てきて世界的に子どもは感染者数が少なく、重症化率も低いと報告されている。

 また、子どもの感染の多くが家庭内感染であることも分かってきた。東京都港区のみなと保健所では、COVID-19の診断を受けた職員や園児がいる区内の保育園を対象に調査を実施。濃厚接触者と判断された職員18人と園児61人のうち、職員18人と園児46人にPCR検査を実施したところ、陽性は職員1人のみで、園児はマスクをしていない状態であっても施設内感染が認められなかった。

 「子どもの感染者数はそもそも少ないし、その数少ない感染者もお友達からではなく、一緒に住む家族や周りの大人から感染しているのです。だから、まずは親御さんの健康管理が大事。食事会など感染リスクの高い行動は避けて、家庭にウイルスを持ち込まないこと。そして、少しでも体調が悪いときは医療機関を受診してほしい。それが子どもの健康を守ることにつながります」(川上先生)

テレワークで心配される親と子のメンタルヘルス

 子どもの健康でもう一つ危惧されるのはメンタルヘルスだ。いま全世代で自殺者が増加傾向にあり、なかでも若年層や女性の増加が目立つ。厚生労働省は関係機関と連携し、対策を強化する考えだ。いま子どもたちに何が起きているのだろうか。

 川上先生は「いつもと違う日常が子どもたちにとってはそもそもストレス」だと指摘する。

 小中高校は休校措置を経て学校再開となったものの、感染対策のために部活動の大会や合唱コンクール、遠足や修学旅行などのイベントの制限が続いている。例年ならば秋冬は卒業アルバム制作の時期だが、イベントがない上に普段からマスクを着用しているせいで、アルバム用の写真が満足にない状況だ。

 「子どもたちに正しくコロナを伝えて、正しく対応させることが大切なのですが、親御さんもこの状況を上手く説明できないのでは。子どもは教えられた通りに三密回避や手洗いなどを頑張っているのに部活も行事もできないし、お父さんやお母さんはコロナだから仕方ないと言うばかりで、これでは何を信じていいのか分からなくなってしまいます。子どもは大人よりもリスクが低いのですから、感染対策を行った上で、なるべくいつも通りの生活に戻してあげてほしい。家庭での日常もいつも通りを意識して、起床や食事の時間を一定にして規則正しい生活リズムを作ってあげること。それだけでも子どもの不安は和らぎます」(川上先生)

 また、コロナ禍でテレワークが浸透したが、働き方の変化は大人だけでなく、子どものメンタルヘルスにも影響を及ぼしている。例えば、在宅勤務で子どもの日常を目の当たりにした親が『もっと勉強しなさい』と叱ったり、仕事の妨げになるからと『静かにしなさい』『自分の部屋に行きなさい』と口うるさく言ったり、親のストレスがそのまま子どもに向けられるケースが少なくないようだ。なかには、テレワーク中の配偶者に配慮して、一日中子どもと公園で過ごしていたという家庭もあった。親も子も心をすり減らしている。

 「子どもは親がそばにいれば『遊んでほしい』『かまってほしい』と思うものですが、テレワークや家事で忙しく、要求のすべてに応えることが難しいときもありますよね。そういうときに『一人で遊んでいて』とタブレットやゲーム機を与えっぱなしにしていませんか。私はコロナ禍以前から、これには大反対なのです。子どもの情緒にどういった影響が出るのかは分からないし、動画やゲームに夢中になるあまり徹夜して寝不足になったり、学校を早退してまでゲームに興じたり、負の側面も明らかになっています。子どもがいつでもこれらに触れられる状況にあることが良くないので、大人が接触時間をコントロールしてあげてほしい」(川上先生)

 さらに、川上先生は「小さな子どもにはタブレットではなく、絵本の読み聞かせ」を提案する。

 「絵本ならば子どもが何に驚いたり喜んだりしているのか、反応を見ながら読み進められますよね。一歳児でもお気に入りの絵本だと『たんたん!』などのフレーズを言えることもあるので、親御さんは『すごい、読めたね!』と喜んであげてください。こういう幸せな時間を共に過ごすことが大事だと思うのです。子どもは成長すると具体的な絵本の内容などを忘れてしまうでしょうが、幸せな記憶は一生残るもの。それが今度は自分が親になったときの支えになりますから。ステイホームで家族と過ごす時間が増えた今こそ、親子の幸せな時間を増やしていってほしいと思っています」(川上先生)

かずえキッズクリニック院長 川上一恵先生

(タイトル部のImage:udra11 -stock.adobe.com)