医療者が目指すアピアランスケアの意味

 ある日、あすから職場復帰だという女性がアピアランス支援センターにやってきた。相談内容は「涙で落ちない眉墨とマスカラを教えてほしい」というもの。「やっと長い治療が終わりました。薄くなった眉毛もまつ毛もバッチリにして会いたいけど、みんなの顔を見たら嬉しすぎて泣いちゃいそう。会社の人、みんな優しいから」と言う女性に、野澤氏はこう語りかけた。

 「いまどきのウォータープルーフだったら、どれでも大丈夫よ。でもね、職場のみんなは治療を終えたあなたを温かく迎え入れてくれるような人たちなのでしょう? もしも黒い涙が流れてパンダみたいになったとして、みんなは笑うかな?」

 女性は首を横に振り「いえ、きっと一緒に貰い泣きしてくれる、そういう人たちなんです。そう思ったら気が楽になりました」と、笑顔でセンターを出ていった。

アピアランス支援センターでは化粧品やネイルケアグッズなども試すことができる

 医療者が行うアピアランスケアとは何か、野澤氏はずっと考えて研究してきた。その結果、がん患者は、外見の症状そのものより、その姿で行く先の人間関係やコミュニケーションシーンに悩んでいる場合が多いことがわかった。ならば、円滑にいくようにアドバイスをするのが、最初に医療者の行うべきことだ。

 この女性にとって最も大切なのは、そんな温かな場所に元気に戻れた幸せを100%実感し、周囲とも共有することである。それが、その後の女性を、周囲の人を、支えて行く。もし、上手に涙をふくハンカチの持ち方を教え、より強力なウォータープルーフの商品を試していたら、その大切な場面で、うまくできたかな、という些末なことに意識が行ってしまいかねない。

 同じ相談を化粧品売り場でしていたら、女性は少しでも強力なウォータープルーフの商品を探して買っただろう。それはそれで大切な答えの一つだ。しかし、医療者が同じことを行う必要はない。外見は、人が社会を生きる手段の一つに過ぎないのだから、キレイになってもならなくても、逆に症状を強調しても、患者が自分らしく快適に過ごせるなら構わないと、医療者は考えるからである。

 職種によって支援のゴールは異なるのだ。