世界中のファッション業界関係者が注目するパリ・コレクション(パリコレ)。しかし、ランウェイを車いすが通ったことはないという。福祉関連事業を展開する企業経営者の平林景氏はその情報を得るや、「車いすでランウェイ」の実現を決意。一般社団法人日本障がい者ファッション協会を設立し、巻きスカート型の「bottom’all(ボトモール)」を開発した。

平林氏が思い描いているのは障害への偏見がなく、誰もが自分の好きなファッションを楽しめる世界。ボトモールを通して、氏が伝えたいこととは──。

一般社団法人日本障がい者ファッション協会 代表理事 平林景氏(提供:日本障がい者ファッション協会)
一般社団法人日本障がい者ファッション協会 代表理事 平林景氏(提供:日本障がい者ファッション協会)
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 平林氏は自他ともに認める“福祉業界のオシャレ番長”だ。もともとは美容師だったが、手荒れの悪化で仕事が続けられなくなり、福祉業界に転身した。現在は福祉関係の事業を展開する株式会社とっとリンク(兵庫県尼崎市)を経営している。

 「以前にオシャレな福祉施設をつくろうとしたら、『そこにこだわるなら療育そのものに力を入れてほしい』と言われた。オシャレなレストランがまずいわけではないのと同じように、オシャレな施設だと良い療育ができないわけではない。しかし、福祉業界では目立ってはダメという風潮が根強く、オシャレの要素が極端に欠落している」

 だからこそ、車いすでのランウェイにこだわるのだが、多様性や包摂性を重視するこの時代に、パリコレのランウェイで車いすにスポットライトが当たったことがないことは少々意外だ。パリコレはこれまでもジェンダーや環境問題などの社会課題に積極的に挑んでいる。

 「車いすでランウェイが実現していない理由を自分なりに考えてみると、ファッションは立位姿勢で完成するので、座位姿勢だとバランスが崩れるという偏見と、障害そのものへの偏見があるのではないか。逆に言えば、ファッションの最高峰であるパリコレに車いすが登場すれば、障害に対する見方が変わるはず」

目指すは障害の有無に関係なく誰でも履けるボトムス

 “車いすでランウェイ”という目標はゆるぎないが、だからと言って、車いすユーザーだけを対象にしたコレクションを披露するつもりはない。他のコレクションと同じく、多くの人に夢や憧れを与え、創造性に満ちたショーを目指す。

 「車いすで登場するだけではマイナスがゼロになるだけで、それならば自分たちがやる意味はない。挑戦する以上はマイナスをプラスにするべく、車いすだからこそカッコよく、健常者が『自分も着たい』と思えるような、障害の有無に関係なく最先端のファッションを提案する」

巻きスカートのような形状のボトモール。ウエスト部分は着脱しやすいようにマジックテープを採用したほか、車いすに座った状態でも丈が短くなり過ぎないように前下がりに設計。デザインは男性でも違和感なく履けるように複数の色の布地を組み合わせたほか、プリーツ加工のパーツも入れて袴のようなテイストに仕上げた(写真:武藤奈緒美、以下注記のないものは同)
巻きスカートのような形状のボトモール。ウエスト部分は着脱しやすいようにマジックテープを採用したほか、車いすに座った状態でも丈が短くなり過ぎないように前下がりに設計。デザインは男性でも違和感なく履けるように複数の色の布地を組み合わせたほか、プリーツ加工のパーツも入れて袴のようなテイストに仕上げた(写真:武藤奈緒美、以下注記のないものは同)
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 そのために開発したのが「bottom’all(ボトモール)」だ。巻きスカートのように一枚の布を腰に巻き付けてまとう。車いすユーザーが「オシャレは好きだが、車いすだと試着室に入れないことがあるし、仮に入れても人の手を借りないと着られない。自分のオシャレという欲求のために人の手を煩わせるのが嫌だから、オシャレは封印した」と話したことに着想を得た。

 「誰でも簡単に脱いだり着たりできるアイテムをつくろうと考え、教育大学の准教授に相談した。ゼミ生や卒業生も交えて意見交換するなかで出てきたのが巻きスカートのアイデアだった。ただ、いまの日本社会ではスカートは女性のものという固定観念があり、男性が履くのはハードルが高い。ある学生は、問題はネーミングではないかと指摘した。今回我々がつくろうとしているのは男性も女性も関係なく着用できるもの。もちろん障害の有無も、年齢も関係ない。それで、全員(オール)が着用できるボトムスという意味で、ボトモールという名前を付けた」

ボトモールが当たり前の世界にするために

 「デザインやネーミングを工夫しても男性のスカート姿に違和感を抱く人はいる。私は毎日ボトモールを着用しているが、女装癖など心無い言葉をかけられることも。ただ、そこは見る側の慣れの問題だと思っている。周囲ではすでに私のボトモールが当たり前になっていて、たまにパンツスタイルだと『ちゃんとした格好をしてください』と言われる(笑)」

 スカートに対する人々の意識を変えていくために、日本障がい者ファッション協会では地域の首長に活動の意義を説き、実際にボトモールを身に着けてもらう活動を続けている(現在はコロナ禍のため活動は限定的)。最初に着用したのは福岡洋一大阪府茨木市長で、昨年末には吉村洋文大阪府知事にも着用してもらった。今は良くも悪くも男性のスカート姿にインパクトがあるため、首長のスカート姿はマスメディアでも写真付きで取り上げられ、市民の関心を集めることにつながっている。

世界を変えるには日本を、日本を変えるには地域を変えていかなければならないとの考えから、様々な地域の首長にボトモールを着用してもらい、その意義を伝えている(提供:日本障がい者ファッション協会)
世界を変えるには日本を、日本を変えるには地域を変えていかなければならないとの考えから、様々な地域の首長にボトモールを着用してもらい、その意義を伝えている(提供:日本障がい者ファッション協会)
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 今はまだ男性用スカートは流行っていない。流行らないからつくられない、つくられないから売っていない。売っていないから着る人が増えない。車いすユーザーがオシャレを楽しめる洋服が市場にないのもまったく同じ構図だ。しかし、市場には確実に必要としている人がいる。

 「要介護の高齢男性が孫のお祝いの席でフォーマルウエアを着たいと言ったが、車いす用のフォーマルが見つからない。一般的な男性用ジャケットは丈が長いので、座ったままだと裾がしわくちゃになってしまうのだ。そこで、ショート丈のジャケットをオーダーメイドでつくり、センタージップ式のボトモールと合わせた。最初につくったボトモールはウエストがマジックテープ式だったが、介護の現場から出た『着替えをサポートするにはジップで前開きできる方が良い』との声を反映した。晴れて男性はお祝いの席にオシャレをして参加でき、本人もご家族も喜んでいた」

 ボトモールは社会への問題提起としてつくったもので、当初は販売計画はなかった。しかし、平林氏のもとには商品化を期待する声が寄せられ、現在は「就労継続支援A型事業」に向けたプロジェクトを進めている。実現すれば、一般企業での就労が困難な障がい者に雇用の機会を提供できる。ボトモールの利用者が自ら、縫製やデザインなどを手掛けるイメージだ。しかも、自分たちが手掛けた製品がパリコレで紹介されたとなれば、プライドや自信も生まれるだろう。

 「今の社会では障害は劣っているものという意識がある。子どもの障がいを隠したい親もいれば、福祉にオシャレは不要とか男性のスカートはおかしいという人もいる。そういった諸々の偏見を丸ごとひっくり返したい。ボトモールはそのための戦闘服。最初からこれを全員が受け入れるとは思わないが、変だと感じる人が9割から8割、さらに7割と徐々に減ればいい。5割くらいまで減れば、世間の見方はかなり変わっているだろうし、それが世界を変えることだと思っている。いまの時代が抱える偏見は自分たちの世代で解決して、子どもたちには明るい未来を引き継ぎたい」

“車いすでランウェイ”を実現することで「障害や福祉に対する見方を変えたい」と平林氏
“車いすでランウェイ”を実現することで「障害や福祉に対する見方を変えたい」と平林氏
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(タイトル部のImage:udra11 -stock.adobe.com)