美容外科の技術を形成外科に

 山口氏は3年前まで形成外科医だった。形成外科は特定の臓器を対象としない診療科であり、外傷や疾患などで変化した身体のカタチを整えることを専門とする。山口氏は小児形成外科医として先天異常の子どもたちを救いたいと、台湾に留学して世界最先端の医療を学んだ。有村さんが受けた輪郭矯正手術は形成外科医として学んだ技術だ。

 しかし、日本では形成外科でできることには限界があった。たとえば、口唇・口蓋裂の患者は成長するにつれて、悩みが機能や形態から整容へと変化する。最初は呼吸や食事、発話などの問題を解消するために、唇の縫合や顎の骨移植などの手術を受けるが、やがて、外見についての悩み、鼻の低さや下顎の前突などを整えたいという相談が増えるという。

 「整容については保険適応の手術が極めて少ない。そのため、機能は問題なく、形態も大きな変形はなくなったが、本人は外見にコンプレックスを抱えたまま、ということが往々にしてあった。これを変えたくて、美容外科に転身した。形成外科の最終目標は患者のキズや変形を治療し、社会で幸せに生きられるようにすること。それならば形成外科の仕上げは美容外科の技術と心をもってあたるべきではないか」

 山口氏はいま月1回、ボランティアで手術を行っている。条件は先天異常の鼻変形であること、そして術前術後の写真を学会発表等に使用することを許諾すること。患者は主にインスタグラムを通じて募っている。山口氏のファンという男子学生からの応募もあった。既に4件の手術が終わり、手元には4人分の笑顔の写真がある。

鼻に対して大学病院にて複数回の施術を受けたのち、山口氏の元へ。唇裂外鼻変形に対して肋軟骨を使った鼻形成を行なったことで、外鼻が整っただけでなく、立体感が出たことにより表情も豊かになった(写真所有権:患者さまご本人、写真管理:株式会社KYイメージングテック)

 「写真を見れば一目瞭然だと思う。大学病院の形成外科で何度手術を受けても治らなかったことが、美容外科の技術で治すことができる。こういった仕上げの手術を形成外科で行えるようになれば、笑顔になれる患者が増える。これは僕の壮大な野望」

 もちろん簡単な話ではないことは山口氏も承知している。保険制度の限界、混合診療の難しさ、形成外科と美容外科の関係性など、眼前に横たわる課題はどれも一筋縄ではいかない。しかし、誰にも明るく、幸せに生きていく権利はある。そのために何ができるのか。美容を取り巻く医療は新たなフェーズを迎えるかもしれない。

(タイトル部のImage:udra11 -stock.adobe.com)