婚活中の女性が出したエピテーゼの条件

 なぜエピテーゼが必要なのか。萩原氏が忘れられないエピソードがある。

 「農作業で小指を欠損した80代の女性にエピテーゼを製作したときのこと。彼女は自転車に乗る時に欠損が目立つと感じ、誰かとすれ違うたびに『こんなものを見せてごめんなさいと思う』と言っていた。周囲にそんなつもりがなくても、本人は長年ツラい思いを抱えている。彼女は出来上がったエピテーゼを喜び、亡くなるまで愛用してくれた」

 また、小指とその付け根部分を欠損した婚活中の女性も印象に残っている依頼者の一人だ。彼女は海外生活中に作ったグローブ型のエピテーゼを持っていた。それは手の大部分を覆うような仕様で、重くて圧迫感がある。もっとコンパクトで使い勝手が良いものができないかと、メディカルラボKにやってきた。

 「初めはコンパクトさ重視で小指だけのものを作ったが、日常生活のなかで頻繁に外れてしまった。そこで2つ目を製作。小指のエピテーゼに薬指用のバンドを組み合わせれば安定感が増すのだが、彼女は『婚活の妨げになる』と難色を示した。それで薬指から遠いところにある人差し指用のバンドにしたのだが、今度はバンドがたるんで使いにくいと、彼女は3つ目をオーダー。婚活の妨げにならないギリギリの選択として中指にバンドをかけるデザインにしたところ、ようやく満足いく仕上がりとなった。苦労した分だけ、喜びもひとしおだった」

小指のエピテーゼのサンプル。エピテーゼを安定させるために薬指にバンドをひっかける。バンドは目立たないが、なかには指輪をする人もいる

 萩原氏は装着する人にとって最良のエピテーゼになるように丁寧に面談を行い、日常的に装着するのか、必要な時だけなのか、水仕事や力のかかる作業をするのかといったことを確認する。しかし、依頼者自身もエピテーゼへの要求をロジカルに語れるわけではない。面談や型どりなどの際に雑談するなかで、ようやくリアルな使用場面が見えてくることもある。前述の女性のように、実際に着けてみて初めて気づくこともあるだろう。エピテーゼはそれだけ繊細なものなのだ。