斬新なアイデアと補聴器のプロとの出会い
現在、松島氏は兵庫県宝塚市の里山を拠点に自然体験塾「いころ」を運営するほか、神戸三田アウトドアビレッジTEMIL(テミル)で施設管理にも携わっている。キラキラ光るシールは相変わらず子どもに人気だが、欠点もある。たとえば、冠婚葬祭の席ではシールを剥がさなければならない。一旦剥がしたシールは元に戻らず、捨てざるを得なかった。
「ネイルチップみたいに付け替えができたらいいのに」と考えた松島氏は市販材料を使って自作を試みたが、なかなかうまくいかない。どうしたら補聴器に適したチップができるのか。思い浮かぶ案を片っ端から試すも、なかなか良い方法が見つからない。市販の接着剤やネイル用品をいろいろと試すなかで、ついに補聴器の一部が壊れてしまった。
自分一人で開発する限界を感じたが、ここで諦めはしなかった。松島氏は「補聴器を可愛くしたいと思っている人はほかにもいるはず」だと考え、SNSで検索したところ、イメージに合うデザインの補聴器を見つけた。それが北村氏の作品だった。
北村氏はイヤモールドメーカーの系列店舗である西部補聴器で店長を務める。イヤモールドとは補聴器の音をクリアに聴くための耳栓のこと。それに直接彩色した「アートモールド」は同店オリジナル商品で、補聴器とお揃いのデザインにすることもでき、その写真をSNSで公開していた。「デザインが素敵だし、何より補聴器のプロと一緒なら良い製品ができる」と考えた松島氏は早速ダイレクトメッセージを送った。
そこからの展開は早かった。北村氏はネイルチップのように付け替えるという松島氏のアイデアに感心し、ネイルアートの材料を使って試作品を作り始めた。大阪府にいる松島氏と東京都にいる北村氏の間を何通ものメールが行き交う。さらに数名のモニターを巻き込んで、わずか1カ月間で複数の試作品を完成させた。
「シリコンで補聴器の型を取り、そこから補聴器にぴったりと合うように樹脂を成形してチップを作る。厚過ぎると装着時に違和感があり、薄過ぎると割れてしまう。でも、本体とチップの間に隙間が空くと髪の毛がひっかかるので、ギリギリの薄さにして本体との密着性を高めなければならない。その塩梅を見極めるのに苦労した」(北村氏)