転換点は2013年、HMT上場が評価を変えた

IABの進出は、地方都市の活性化という面でも興味があります。IABができたことで、鶴岡はどのように変わったのでしょうか。

 正直なところ、最初の7~8年間はアウェー感がありました。市民からの税金を使って私立大学を誘致したわけです。「経済効果は何か。納税者のメリットは何か」という話になるのは当然でしょう。学部を作れば大学生が数百人来ることになり経済効果が期待できますが、研究所ですから即効性のある経済効果は期待できません。

 結果、一部の市民は熱狂的に迎えてくれましたが、大半の市民はクールでした。しかし当時の富塚陽一鶴岡市長は腹が座っていました。「IABの誘致は今の納税者のためではない。次世代のための種まきだ」と言い続けていました。このままでは、30年後には自分たちの街が無くなる。何かしないといけないということが共通の認識としてあったと思います。

 地方都市によっては、既存の企業を誘致することで活性化しようとするところもあります。しかし、それをやっている限り、地域間の競争になってしまい、日本全体で見ればプラスマイナスゼロです。日本を支えるような産業をゼロから創り、それがあることによって結果的に地元が潤う。そういう気概で取り組んできました。なので私たちのやっていることは地域のためではありません。日本のため、あるいは人類のためです。みんながそういうマインドを持てば日本は変わると思います。

 ただし、ゼロから産業を作ろうとすると最低でも30年はかかります。今の日本には30年先を考えている人はほとんどいません。30年というと長いようですが、一世代の話なのです。次世代のために長期的な視野で取り組んでいる鶴岡市はすごいと思います。

 鶴岡は、人口13万人の典型的な地方都市です。成功例や面白い人材が出たということになれば、他の多くの地方都市にも影響を与えることができるでしょう。説得力を持たせるには、成功例を出すことが必要です。時間がかかりますが地方都市の成功モデルを目指し続けます。

周囲の評価が変化しているように感じますか。

鶴岡唯一の上場企業であるHMTのホームページ(出所:HMTのWebサイトから)

 慶應鶴岡発ベンチャー企業のHMTが上場した2013年がターニングポイントでした。HMTは鶴岡唯一の上場企業です。慶應が鶴岡に研究所を作って13年目に上場企業ができたということで、新産業創出という意味が市民にも分かりやすく伝わりました。同じ時期、別の慶應鶴岡発ベンチャー企業Spiberが人工クモ糸で青いドレスを創って発表したことで、全国ニュースに取り上げられ、追い風となりました。

 全国から視察団も来るようになりました。安倍晋三首相も1年半前に予算委員会で鶴岡を「地方創生のモデル」、と名指ししたことで、国会議員や地方自治体が頻繁に訪れるようになりました。