*本連載の趣旨はこちら

日興アセットマネジメントが運用する「グローバル全生物ゲノム株式ファンド」(1年決算型)は、世界のゲノム(遺伝子情報)関連企業に投資するユニークなファンドだ。2019年1月16日に設定。米国の運用会社アーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー(以後、アーク社)の知見・アドバイスを活用して運用されている。同年9月30日現在の基準価額は9604円(図1)。

図1●基準価額と純資産総額の推移
設定時1万円の基準価額(分配金再投資ベース)は、2019年9月30日現在9604円(グラフ:日興アセットマネジメントの資料を基にBeyond Healthが作成)

 同ファンドの特徴について、日興アセットマネジメント商品開発第一部シニアマネージャーの千葉直史氏は「『ゲノム解析』『ゲノム編集』という2つのゲノム関連技術を活用したビジネスを手掛ける企業を中心に投資している。ファンドの投資比率の9割近くは医薬品やバイオテクノロジーに関連する銘柄だが、素材や食品・飲料、半導体なども一部組み入れている。『ヒトゲノム計画』以降、ゲノムの『解析・編集技術』の進化は続いていたが、近年新たなゲノム技術の実用化やゲノム解析技術の大幅なコストダウンが実現されたことで、ようやくビジネスにつながるプロジェクトが見えてきたことがファンド設定につながった」と話す。

 運用方針については「目先の利益を追うのではなく、長期的な利益成長を目指しているので、『ゲノム研究を1事業としてやっている大企業』ではなく『ゲノム研究に特化したイノベーティブな企業』が多くを占める。そのため一般にヘルスケアファンドはディフェンシブといわれるが、当ファンドにその傾向はほとんどなく“攻めのファンド”と言える」という。

「グローバル全生物ゲノム株式ファンド」(1年決算型)の商品開発を手掛けた日興アセットマネジメント商品開発第一部シニアマネージャーの千葉直史氏(写真:川田 雅宏)

 ファンドの組入上位には先進的なゲノム関連企業が並び、国別では米国の存在感が大きく約8割を占める(図2)。2位の中国は足元では約10%を占める。中国は近年、ゲノム研究を戦略的な注力分野として国を挙げて技術開発を奨励している。国民の健康に関するゲノム情報等を収集・管理しやすい環境にあるため、ビッグデータを活用したヘルスケア推進事業などの将来性が有望視されている。3位のスイスは後述するCRISPRセラピューティクス社のウエイトが大きい。

図2●組入上位10カ国・地域
米国が全体の約8割。次いで中国が約10%、スイスが約7%を占める(表:日興アセットマネジメントの資料を基にBeyond Healthが作成、2019年9月30日現在)

 直近の組入対象企業に日本企業は含まれておらず、千葉氏は「日本企業のゲノム技術が劣るというわけではなく、このファンドのコンセプトとして『予測される5年後の目標株価と現在の株価のギャップが大きい企業』、つまり『大きく化ける可能性を秘めた企業』を選定している。日本は巨大企業が1事業としてゲノム研究に取り組むケースが多く、その成果が株価に与えるインパクトは相対的にみて小さい場合が多い」と話す。

組入比率9位にはアップル

 個別企業を見ると、1位のイルミナはゲノム解析市場を牽引する米国企業で、これまでに解析されたヒトゲノムの約95%がイルミナ社によるものとされる(図3)。2位の米国のブリストル・マイヤーズスクイブ社は、革新的医薬品メーカーのセルジーン社を買収したことにより、今後がん治療薬分野での躍進が期待されるバイオ製薬会社で、組入銘柄の中では数少ない大手企業の1つ。3位のCRISPRセラピューティクス社は、“分子版ナイフ”と呼ばれる画期的なゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」の特許使用権を持つスイス企業だ。

図3●組入上位10銘柄
組入上位銘柄には、3位の CRISPRセラビューティクス社を除き、アメリカ企業が並ぶ(表:日興アセットマネジメントの資料を基にBeyond Healthが作成、2019年9月30日現在)
運用アドバイザーを務める米国の運用会社アーク社を紹介するパンフレット(写真:川田 雅宏)

 少し意外なのが9位のアップル。千葉氏は「アップルはゲノム関連ビジネスを行う企業ではないが、このファンドはゲノム関連ビジネスを直接手掛ける企業に加えて、ゲノム技術の恩恵を受ける企業も投資対象にしている。アップルは、アップルウオッチを活用したヘルスケア事業で収集・管理される健康・生活データが、遺伝子情報と組み合わされて研究されることで人間の健康に寄与することが期待されるため、組入対象となっている」と話す。

巨大な成長機会を秘めるゲノムビジネス

 アップルなどを除けばほとんどが一般にはなじみのない企業だ。「ゲノム関連ビジネスを行う企業は販売されている商品をまだ持っていない企業が多く、そうした企業は現状では研究開発が事業の中心であり、コストが先行している状態。特定の企業を個別銘柄で持つより、ファンドで持った方がリスク分散になる」(千葉氏)。

 ゲノム関連ビジネスの将来展望について、千葉氏は「生命の設計図とも呼ばれるゲノムに編集を加えることから、ヘルスケア分野では慎重に研究開発が行われており、既存治療では治癒が困難な希少疾患における取り組みが先行している。既にいくつかの疾患では治験が行われており、近々その結果について目にすることができるだろう。

 また、微量ながん細胞などのゲノムを検出する『ゲノム診断』の普及にも期待が持てる。従来の『スクリーニング—生検』などの診断手法に比べ、より早期かつ安価に、患者のダメージが少ない液体生検等で診断ができるようになる。長期的に見れば、ゲノム技術は健康問題、食糧問題、環境問題など多様な課題を解決しうる技術であり、ビジネスとしてたいへん有望。巨大な成長機会を秘めている分、大きなリターンも期待できる」と話す。

「多様な分野で課題解決の鍵を握るゲノム技術はビジネスとして有望」と千葉氏(写真:川田 雅宏)

(タイトル部のImage:peshkov -stock.adobe.com)