美容医療やアンチエイジングなど、ヘルスケアと密接な関係にある化粧品会社。「メード・イン・ジャパン」人気に支えられて成長してきたが、コロナ禍による急転で、各社とも事業の見直しを迫られている。とはいえ、後ろ向きな話題ばかりでないのも、このセクターの特徴だ。機能性化粧品の伸長や中国市場の拡大などニューフロンティアが控える同セクターは、新たな成長ストーリーの入り口にいると見ることもできる。今化粧品で起きつつあるイノベーションについて、UBS証券の川本久恵株式調査部アナリストに話を聞いた。

川本久恵氏 UBS証券調査本部株式調査部アナリスト
川本久恵氏 UBS証券調査本部株式調査部アナリスト
米国シンシナチ大学経営学修士課程修了後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て、2018年より現職。化粧品・消費財業界を担当。2017年日経ヴェリタス人気アナリスト調査第2位(写真:川田 雅宏)
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現状、国内の化粧品の市場規模やシェアはどうなっているのでしょうか?

 市場規模は出荷ベースで約1兆7000億円、このうち約9000億円がスキンケア商品で、洗顔料、化粧水、美容液、クリームなど基礎化粧品類がこれに当たります。企業別のシェアでは、資生堂と花王が各々25%程度を占め、これにコーセーやポーラ・オルビスホールディングスが続く形です。このセクターには、中小のメーカーが多いのも特徴です。

肌の健康や若さを維持するためのスキンケア商品は、化粧品の中でも最もヘルスケア的な要素が強い分野という印象です。この分野では、ポーラ・オルビスHDが開発した独自成分ニールワン(三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na)を配合した美容液「リンクルショット メディカルセラム」が2017年1月に発売されて大ヒットするなど、イノベーションが起きているようです。

 ポーラ・オルビスHDが15年をかけて開発したニールワンには、シワの原因となる好中球エラスターゼをブロックする機能があり、「リンクルショット メディカルセラム」は日本で初めてシワ改善効果のある医薬部外品として承認されました。私も製品発表会に行きましたが、研究員の方が実験的に顔の半分だけに使用されていて、左右の差がリアルだったのが強く記憶に残っています。

 同じ2017年には、資生堂が「エリクシール」シリーズで純粋レチノールを配合した「リンクルクリーム」を発売しました。グラム当たりの単価を「リンクルショット メディカルセラム」よりも抑え、ドラッグストアで販売される商品で、この純粋レチノールもシワを改善する効能で認可を受けています。両者を追う形で、コーセーも「ONE BY KOSE」でシワ改善有効成分リンクルナイアシン(ナイアシンアミド)を配合したクリームを出しています。

 それまで、「エイジングケア化粧品」という分野はありましたが、シワ改善に特化した市場はありませんでした。ポーラ・オルビスHDや資生堂が、新たなマーケットを切り開いた格好です。

コロナ禍で機能性化粧品にも課題

「リンクルショット メディカルセラム」は新規顧客の開拓やクロスセルにも寄与したと聞いています。業績や株価インパクトはどうだったのでしょうか。また、シワ改善化粧品以降、こうした機能性化粧品の市場が活性化したということはありますか?

 「リンクルショット メディカルセラム」は2017年1~12月で約130億円を売り上げ、これを受けて2017年の年初に2400円台だったポーラ・オルビスHDの株価は、2018年5月に5410円の高値を付けています。同社では2020年1月には顔全体に伸ばすタイプの美容液「リンクルショット ジオセラム」を発売するなどシリーズのアイテムを増やし、2021年1月には別の美肌成分も付加した「新リンクルショット メディカルセラム」を、価格を据え置いて売り出しました。発売6日で約4万個を売り上げるなどリニューアル版も出足は順調です。しかし、2017~18年頃の勢いはありません。機能性化粧品市場は旺盛なインバウンド需要に支えられた面もあり、コロナ禍で状況が大きく変わっています。

コロナ禍で在宅時間が増えたことやマスクの着用により、女性があまりメイクをしなくなったという話をよく聞きます。口紅などのメイクアップ化粧品は打撃を受けていそうですが、スキンケア化粧品はどうなのでしょうか?

  国内の化粧品の出荷額は、2020年10月が前年同月比マイナス10.2%、11月が同10.9%と大幅な縮小傾向が続いています。しかし分野別に見ると、10~11月のメイクアップ化粧品は依然として前年同月比で4割近いマイナスに沈んだままなのに対し、スキンケア化粧品はほぼ前年並みまで回復してきています。

 これは機能性化粧品にとっても悪いことではないのですが、コロナ禍ではむしろ「敏感肌」「安全・安心」を謳った値頃感のあるスキンケア化粧品が売り上げを伸ばしています。加えて、化粧水・乳液・美容液・クリームなどの役割を一つで果たす「オールインワン化粧品」も市場を拡大しています。

 背景には、外出自粛で化粧品販売のオンラインシフトが急速に進んだことが挙げられます。SNSをやりながら気軽に買い物ができるといった利便性からオンラインのチャネルが選好されているのです。これにより、店舗を持たないスモールブランドが急速に存在感を高めています。高価格帯が多い機能性化粧品にとっては、美容医療の低価格化も痛手です。安価でソリューションが得られてしまうわけですから、「高い化粧品を使わなくても医療で治せる」という選択肢が生まれます。

事業の見直しが進められている資生堂(写真:つのだよしお/アフロ)
事業の見直しが進められている資生堂(写真:つのだよしお/アフロ)
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なるほど。オンラインシフトは、アフター・コロナの業界動向を占う上でも大きな鍵になりそうですね。化粧品大手のeコマースへの対応はどうなっているのでしょうか? また、この分野で強みを持つ企業はどこですか?

 資生堂やコーセーの日本売上高全体に占めるオンライン販売比率は5~7%程度と推定されます。大手各社は今、こぞってデジタルの強化に取り組んでいます。一方でオンラインに強みを持つのが、準大手のファンケルや新日本製薬です。ファンケルはオンライン通販に軸足を置いていますし、新日本製薬も通販のオールインワン化粧品が好調です。

市場牽引する中国富裕層とジェネレーションZ

コロナが収束すればインバウンドも戻ってくるかもしれませんが、日本の人口は減少局面に入っていますから長期的には国内需要の縮小が予想されます。2030年以降を見据えたとき、各社の海外戦略も重要になりますね。

 各社が注力するアジアの中でも、コロナ禍でいち早く経済の回復基調が鮮明になった中国の動向が注目されます。当社が独自で中国人女性を対象に調査を行ったところ、コロナの影響で化粧品選びに関してより健康・安全志向が高まっていることが分かりました。また、メイクアップ化粧品については「メード・イン・チャイナ」の選好度が高いのですが、スキンケア化粧品は「原産国を問わない」という意見が多数を占めました。

 中国での膨大な化粧品需要を支えるのは主として富裕層とジェネレーションZです。富裕層向けには、資生堂の「SHISEIDO」、コーセーの「コスメデコルテ」、ポーラ・オルビスHDのプレミアムブランドに加えて、日本の機能性化粧品も商機があります。Z世代には、花王(カネボウ化粧品)の「freeplus(フリープラス)」などの低刺激性化粧品に加え、無添加で製造日を入れて鮮度の高いスキンケア化粧品を提供するファンケルも支持を集めそうです。

(写真:川田 雅宏)
(写真:川田 雅宏)
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中国戦略では、何が重要になりますか?

 中国でもオンラインシフトが進み、内陸の人々もプロモーション付きで化粧品を購入できるようになりました。プレミアム付きのスキンケア化粧品を伸ばしていける態勢が整ったと言えます。中国でのオンライン販売比率が高いのがコーセーです。花王も「キュレル」でドクター・マーケティングを行い、中国化粧品売上高は前年比20%増で推移しています。

 また、中国内でも倍々ペースで急成長を遂げているのが「自由貿易区」海南島での免税化粧品販売です。国内企業では資生堂とコーセーが展開、急拡大しており、2021年は花王が参入、ポーラ・オルビスHDも海南島に店舗をオープンする可能性があります。

サプリメント事業強化進めるファンケルに注目

個人投資家が今年化粧品セクターへの投資を考えるとしたら、どんな点に注意すべきでしょうか?

 化粧品は最もコロナの影響を受けたセクターの一つです。女性の社会進出やインバウンド需要の伸びが追い風になり2019年には出荷ベースで史上最高額を記録しましたが、2020年の大手各社の業績は大変厳しいものになりました。2021年2月には資生堂が低価格帯の日用品事業を欧州系大手投資ファンドに売却すると発表しましたが、各社は事業の見直しや構造改革を余儀なくされています。

 こうしたことから、日経平均株価がバブル後高値を更新した中で、セクターの株価は相対的に低い水準にあります。しかし、安いから買えるということにはなりません。このセクターで機関投資家が見ているのは、グロース(成長性)とマージン(収益性)です。高配当であっても、グロースが見えてこない銘柄は買いづらいでしょう。コロナ収束のタイミング次第というところもあります。

その中で、川本さんが中長期的に有望と思われる銘柄は?

 ファンケルにはサプリメント事業という他社と違う強みもあり、中長期的な成長余地があると考えます。同社の国内サプリメントは約6割が機能性表示食品で、コロナ禍で免疫を高めたい、健康を維持したいというニーズが高まる中、売り上げを伸ばしています。サプリメントは化粧品と親和性が高い一方で、化粧品では捉えられない顧客も取り込めます。今後は中国でも代理店経由で12月より海南島にも進出し、本土ECなどサプリメントを本格展開する予定です。

(タイトル部のImage:jamesteohart -stock.adobe.com)