新型コロナウイルスの感染拡大による先行き不透明感から、下落傾向を見せる株式市場。そんな中、“反発”と“じり安”が混じり合うセクターとして注目されているのが、創薬バイオベンチャーだ。アンジェス、タカラバイオ、ペプチドリーム、そーせい──。真逆の値動きが目立ち、値幅も大きい。いま創薬バイオベンチャー株に何が起きているのか。前回(連載第4回)に続き、いちよし経済研究所の山崎清一氏に聞いた(本文中データなどは4月7日現在)。

山崎清一氏 いちよし経済研究所 企業調査部第二企業調査室 首席研究員
安田生命(現明治安田生命)の投資部門で医薬品セクターを中心にアナリスト業務に携わった後、2000年にいちよし経済研究所に入所。以降、一貫してバイオベンチャーを専門に調査する証券アナリストとして活躍。バイオベンチャーをテーマとした講演やメディアへの出演、寄稿も多い。日経ヴェリタス「人気アナリスト調査」医薬品・ヘルスケア部門の常連(写真:川田 雅宏、以下同)

2019年後半以降、創薬バイオベンチャーのマーケットは“小休止”状態でした。しかし、コロナショック後は関連ニュースも増え、活性化しています。

 確かに、一部の銘柄は大きな値動きを繰り返しています。コロナショック以降はいわゆる“イメージ相場”となり、呼び水となったニュースがどれくらいの売り上げにつながるか、業績に寄与するかということはあまり考えず、思惑で売買されている印象です。

 一方で、技術力が高く、海外のビッグファーマとの提携も進んでいるような銘柄は、軒並み株価を下げています。こうした銘柄には機関投資家の資金が流入しており、コロナショックによる相場の急落でロスカットのルールが適用され、株が売られたためです。そもそも、創薬バイオベンチャーには、新型コロナウイルス関連の銘柄はあまり多くありません。

報道でよく目にするのはアンジェスですね。

 アンジェスは大阪大学と共同で、新型コロナウイルス向けのDNAワクチンの開発に取り組んでいます。動物への投与を行う試験を始めており、4月1日にこのワクチンの特許を出願したと発表しました。

 このワクチンを製造するのがタカラバイオです。タカラバイオは他に、今ではすっかり有名になったPCR検査の試薬も作っています。PCRとは「Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)」の略で、少量のDNAサンプルを特定の研究・検査に必要な量まで増幅させる技術のことを指します。この分野ではロシュが有名ですが、タカラバイオもこの試薬の製造・供給を行っており、アジア圏では高いシェアを持っています。

 創薬ベンチャーではありませんが、業績への影響が大きいと思われるのが、プレシジョン・システム・サイエンスです。遺伝子検査の際には、細胞を粉砕して調べたい遺伝子を取り出す必要があります。従来は手作業で行われており、大量の検査にはとても対応できませんでした。そこで、これを1台の機械で可能にしたのが同社のDNA自動抽出装置です。同社はこの分野で世界的に高いシェアを有し、2008年から2009年にかけ新型インフルエンザの感染拡大が懸念されたときも、“特需”で大きく業績を伸ばしました。

図1●主な創薬バイオベンチャーの株価の推移
2020年1月1日を100として指数化(グラフ:Beyond Healthが作成)

短くなったワクチンの製造期間

アンジェスのワクチンは早ければ9月にはヒトへの臨床試験を開始する予定と発表されています。重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が猛威を振るった時代から比べると、ワクチンができるまでの期間がずいぶん短縮化されているように思います。

 技術革新のなせる業ですね。とりわけ強烈な印象を残したのが米国のモデルナです。新型コロナウイルスのゲノム情報が公開された時点から着手し、わずか40日余りでワクチンを作り上げてしまいました。

 モデルナやアンジェスのスピード感の背景には、抗原とするたんぱく質を産生させるためにウイルスをRNAやDNAという“設計図”の状態で体内に持ち込む手法があります。ウイルスの一部のたんぱく質を用いるのが一般的ですが、この場合、ワクチンができるまでに半年以上かかるのです。

 モデルナやアンジェスの手法でも理論上はたんぱく質を使うのと同じ状態にできるとのことですが、気になるのは、このようなワクチンにはヒトへの投与実績がないことです。人間の免疫機能は複雑なので、計算通りには行きません。専門家の間では感染増強のリスクが指摘されており、時間をかけて慎重に安全性を検証することが求められます。

となると、実用化には、まだ時間がかかるかもしれません。

 ワクチンが広く利用できるまでには、1年から1年半はかかるといわれています。当面は、安全性が実証されている古い薬の新型コロナウイルスへの効果が確認されることに期待しています。今、小野薬品工業の慢性膵炎治療薬「フオイパン錠」や帝人ファーマの気管支ぜんそく治療薬(吸入ステロイド薬)「オルベスコ」が注目されているようですが、こうした薬で軽症や発症早期の人を改善し、中症者などには富士フイルム富山化学の抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」……といったような治療の道筋が付けば、状況は大きく変わってくると思います。

リーマンショック後に早期回復した創薬ベンチャー株

創薬バイオベンチャー相場は今後、どのように動いていくとお考えですか? 

 感染が拡大している間は、相場は今のような不安定な状況が続くのではないでしょうか。

 とはいえ、コロナ問題が大きな逆風となっている旅行・運輸・外食などと比べ、業界への影響は軽微です。病院側の都合で臨床試験ができない、試薬を買ってもらえないといった足枷はあるかもしれませんが、がんやアルツハイマー病も新型肺炎同様に深刻で、治療薬への需要は根強くあります。結果として、企業価値が下がらないのです。

 一概に比較はできませんが、2008年9月に起きたリーマンショックの際の大変興味深いデータがあります。日本の創薬バイオベンチャーの平均株価は同年末には早くもリーマン直前の水準まで値を戻し、1年後にはその3倍まで上昇したのです。1年後の時点では、日経平均株価やマザーズ指数はまだリーマン前の水準まで回復していませんでした。

 このように、世の中が混乱を極め、経済や社会の不透明感が強まったときほど強みを発揮するのが、健康・ヘルスケア関連の産業だと言えるでしょう。

「健康・ヘルスケア関連は、先行き不透明感の強いときに強みを発揮する銘柄が多い」と山崎氏

タカラバイオなど4銘柄に期待

個人投資家は今、どんな戦略で臨めばいいのでしょうか?

 値動きの大きい銘柄を追いかける場合、冷静に買いどきを見極めないと結果的に“高値づかみ”となり、痛い目に遭います。中には思惑だけで動いているものもあり、長期投資を考えている人には不向きでしょう。

 逆に、技術力があって資金調達もできている会社の株が機関投資家に売られて下がっている局面は“買い”かもしれません。第一陣として、こうした銘柄を安いところで拾っておくのも一つの手です。

強気に見ている銘柄として、具体的にはどんなところを想定されていますか?

 まずは、先ほども名前が挙がったタカラバイオ。機関投資家の売り圧力が強い中、一時の急落から回復して株価2000円台をキープしているのは立派です。とはいえ、2月の高値2520円と比べると値ごろ感があり、同社の技術力や業績を考慮すれば、私は強気に見ています。

 ペプチド医薬品の世界的なリーディングカンパニーであるペプチドリームや、昨年、米国のギリアド・サイエンシズとの新規がん免疫療法薬のライセンス契約で約21億円の一時金を手にしたカルナバイオサイエンスも、株価は割安な状況にあると見ています。

 そーせいグループは田村眞一社長が復帰して利益重視の経営へと大きく舵を切り、業績をV字回復させました。昨年も国内外の大手製薬2社と各々合計1000億円を超える提携を決めるなど、長期的にポジティブな要素が目立ちます。アイルランドのアラガンと大型契約を結んだアルツハイマー病治療薬の安全性調査が長引いているのが気になりますが、今の株価水準は割安と言えるのではないでしょうか。とはいえ、投資に「絶対」はありません。自己責任が原則です。

(タイトル部のImage:jamesteohart -stock.adobe.com)