2022年4月、「東証1部」から「プライム」へと生まれ変わった東京証券取引所の最上位市場には、日本の代表的なヘルスケア企業が多数上場されている。他方、プライムには、一般的な知名度は高くなくとも、知る人ぞ知る有力企業も数多ある。プライムとは「第1級の・最上の・最高の」の意味。株式市場で注目されている「知られざるヘルスケアの”プライム企業”」について、ベテランアナリストの和島英樹氏に寄稿してもらった。

医師向け情報提供で業績伸ばす「エムスリー」

和島 英樹氏 株式アナリスト/マーケットジャーナリスト
和島 英樹氏 株式アナリスト/マーケットジャーナリスト
わじま・ひでき 現みずほ証券、株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。2020年6月に独立。企業トップへの取材は1000社以上。近著に「1万円から始める勝ち組銘柄投資」(かんき出版)。レギュラー出演番組にラジオNIKKEI「マーケット・プレス」、東京MXテレビ「東京マーケットワイド」、日経CNBC「攻めのIR」など。日本テクニカルアナリスト協会評議委員(写真:本人提供)
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 東京証券取引所は2022年4月4日より市場区分を従来の1・2部、ジャスダック、マザーズ市場から、「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3市場に再編している。最上位に位置づけられる「プライム」上場では英文での開示が求められるほか、高い時価総額基準などもあり、海外投資家や機関投資家が評価するグローバルな銘柄が選ばれている。とはいえ、プライムに採用されている企業数は1839社に上り、その全てが「超有名企業」というわけではない。一般的な知名度は高くはなくとも、2030年に向けて高い成長が期待できる企業として、株式市場で注目されてる銘柄も多い。

 ヘルスケア関連でも、こうした「知られざるプライム企業」は数多く見受けられる。まずは世界の医師をつなぐプラットフォーマーと言えるエムスリー(証券コード:2413)。製薬会社のマーケティング支援などを行う同社は、医療従事者向け情報サイト「m3.com」(エムスリー・ドットコム)を運営し、サイト内の「MR君」で薬の情報を提供している。MRとは製薬企業の医薬情報担当者のことで、一般的には営業担当者を指す。大学病院の医師などは忙しく、MRがゆっくり会うことは困難となっている。新型コロナウイルス感染症の流行以降は、その傾向が一層強まっている。医師が帰宅後など、時間ができたときに薬の情報を得るのが「MR君」だ。製薬企業がサイトのスポンサーになっており、これがエムスリーの収益になる。製薬企業はMRに営業させるよりも、MR君経由の方がコスト低減でき、営業効率を高めることも期待できる。エムスリーなどの資料によれば、医師の医療情報源のうちMRは17%で、ネットが約4割、それ以外は論文や学会雑誌となっている。一方、製薬企業の営業コストの9割がMRとなっている。これは他の主要国でも同様な傾向があるという。同社の国内の医師の会員数は28万人以上だ。

 エムスリーは、日本で成功したビジネスモデルを韓国、米国、イギリス、中国などに移植する格好で売上を拡大させてきている。米国では医師向けwebサイト「MDLinx」、イギリスでは同「Doctors.net.uk」。欧州ではフランス、スペイン、ドイツでも医薬品情報データベースの提供を行っている。エムスリーグループが世界で運営するサイトやパネルに登録する医師会員数は600万人超に達している。医療業界のプラットフォーマーと呼ばれるようになっている所以(ゆえん)だ。

 このネットワークがさらに次のサービスを生み出す。「エビデンスソリューション」では治験(臨床試験)に参加する施設・対象患者を提供する治験支援サービス「治験くん」を展開している。また、大規模臨床研究支援、治験業務の支援を行うCRO業務などもグループ企業を通じて行っている。「キャリアソリューション」では医師、薬剤師向けの求人求職支援サービスも行っている。つまり、世界中の医師をつなげてさらなるビジネスチャンスを作りだし、業容を拡大し続けているのである。