2022年4月、「東証1部」「マザーズ」などから、「プライム」「スタンダード」「グロース」への再編が行われた東京証券取引所の市場区分。このうち、いわゆる新興市場とされるがグロース(成長)市場だ。投資家の間で成長期待が高いヘルスケアの「グロース企業」について、前回「知られざる日本のヘルスケア『プライム企業』」に続き、ベテランアナリストの和島英樹氏に注目5社を挙げてもらった。

再生医療ベンチャーのセルソース

和島 英樹氏 株式アナリスト/マーケットジャーナリスト
和島 英樹氏 株式アナリスト/マーケットジャーナリスト
わじま・ひでき 現みずほ証券、株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。2020年6月に独立。企業トップへの取材は1000社以上。近著に「1万円から始める勝ち組銘柄投資」(かんき出版)。レギュラー出演番組にラジオNIKKEI「マーケット・プレス」、東京MXテレビ「東京マーケットワイド」、日経CNBC「攻めのIR」など。日本テクニカルアナリスト協会評議委員(写真:本人提供)
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 東京証券取引所の「グロース市場」とは旧東証マザーズ市場とジャスダック市場のJASDAQグロースを2022年4月に集約した市場。高い成長性を有している新興企業が属している。売上などの規模が小さく、「プライム市場」よりも事業リスクは高いものの、その分将来性が豊かな企業とみることができる。そんなグロース市場で、投資家からの注目度の高いヘルスケア企業としてまず覚えておきたいのが、セルソース(証券コード:4880)だ。

 セルソースは、整形外科分野などで活躍する再生医療ベンチャー。再生医療では細胞を用いた薬である「細胞治療薬」が有名だが、同社は患者自身の細胞組織から細胞を抽出し、患者に戻して治療する「細胞加工」を展開。医療機関から患者の細胞や血液を預かり、再生医療などに使うための培養・加工する事業を手掛けている。 

 同社のサービスは、よく「セントラルキッチン方式」と呼ばれる。細胞加工をアウトソースしたい医療機関はセルソースと提携することで、細胞加工に必要な初期投資が不要になるなど業務を集約化できる。同社はこれらを一手に引き受けることにより、業務の効率化の向上に加えて、ノウハウの構築も進めることができる。外食チェーンなどで、食材を1つの工場で集中的につくって各店舗に配送することをセントラルキッチン方式と呼ぶ。同社の事業モデルもこれになぞらえて説明されることが多い。

 セルソースが重点領域にしているのが、膝関節が炎症を起こす「変形性膝関節症」。これは関節でクッションの役割を担う軟骨が加齢や肥満などですり減ってしまうことが原因の疾患で、痛みが伴う。

 現在の治療法は、手術で人工関節を埋め込む方法と、ヒアルロン酸の投与が一般的だ。人工関節は痛みが軽減できるものの、手術という患者への負担が大きい上に、術後のリハビリにも時間を要する。ヒアルロン酸の投与は根治ではないため、定期的な通院が必要となる。再生医療による新たな治療法への期待が高い。その方法は、軟骨へ分化する能力を有する「間葉系幹細胞」と、血液から濃縮したたんぱく質の「成長因子」の投与。具体的には患者の脂肪細胞から間葉系幹細胞を分離し、約5週間で400倍の細胞量に増やす。同社はこの分野での先駆者だ。血液から成長因子を濃縮し、凍結乾燥化する調整法での特許を有している。この手法では患者の身体への負担を抑えつつ、ヒアルロン酸よりも炎症を抑えることができるという。同社では、保険の適用外である自由診療方式で提供している。

 変形性膝関節症の国内の推定患者数は高齢者を中心に2530万人超とみられており、高齢化の進展で今後も患者数の増加が見込まれる。提携医療機関数は2022年10月期の第1四半期末現在1109で、前年同期に比べて70%増と急増。血液由来加工受託件数は同4135件で、同53%の伸びとなっている。海外進出も検討中で、マレーシアの総合商社と覚書を締結し、現地の医療機関での治療の普及を目指している。これが順調に進めばインドネシアやフィリピンなどアジアでの展開を伺う見通しだという。

医療情報プラットフォームを軸に成長図るケアネット

 次に紹介したいのが、医療情報のケアネット(証券コート:2150)だ。同社の基盤事業は「メディカルプラットフォーム事業」で、ここでは医師の臨床支援を第一義に考え、臨床に役立つ様々な情報を提供している。年間3000以上の医療コンテンツを医師・医療従事者に配信する「CareNet.com」やプログラム数2000以上を誇る日本最大級の臨床医学教育動画サービス「CareNeTV」が主なサービス。18 万人を超える医師が同社のプラットフォームに会員として登録し、日常的に活用している。

 製薬企業の医薬品の適正な普及を支援する「医薬DX事業」にも力を入れており、主力事業の1つに成長している。製薬業界は新薬の開発や普及においてデジタルトランスフォーメーション(DX)化を積極的に進めている。同社の有する18 万人超の医師会員のデータベースとプラットフォームを活かした動画配信などは、製薬企業のニーズに合致し、さらなる収益部門に成長する可能性が高い。製薬企業の販売促進に影響力を持つ医師などの専門家(キーオピニオンリーダー=KOL)とのオンラインコミュニティの運営も行っている。

 また同社では、個人・患者と医師をつなぎ、データを分析して健康管理と適切な医療介入を行う「ヘルスデータサイエンス事業」を中長期的な成長事業と位置付けている。既に健康相談プラットフォームの構築を視野に2021年2月、オンライン健康相談サービス「Doctors Me」(ドクターズ・ミー)を運営する企業を買収。一方、職域を軸とした社員の健康管理の支援分野では、2020年11月に東京海上ホールディングスと資本業務提携を実施している。事業の行く末が楽しみだ。

HAL(ロボットスーツ)が注目のサイバーダイン

 3社目は、ロボットスーツ「HAL」(ハル)を用いた機能改善・機能再生療法を展開しているサイバーダイン(証券コード:7779)。人が体を動かそうとする時、脳から筋肉に神経信号が伝達されることで、関節などの筋骨格系が動く。HALの仕組みはこの応用だ。例えば、疾患で足が動かない患者が「動かしたい」という動作意思を示すと、この意思が反映された微弱な“生体電位信号”が皮膚表面に流れる。HALは生体電位信号を読み取って、パワーユニットをコントロールし、患者と一体となって関節の動きをアシストする。同社は、脊髄損傷や脳卒中、神経筋疾患の患者に、このロボットスーツを装着することで機能の改善を促す。繰り返し訓練(治療)することで、最終的にはロボットなしに動かせるようになる。

 HALはまず、2013年にドイツで機能改善治療として労災保険の適用が認められた。日本では2015年11月に医療機器としての承認を取得し、2016年4月から薬価収載が認められた。その後、欧州、米国などでも治療機器としての承認を取得し、運動機能を改善する効果が認められた唯一の医療機器として治療に使われている。

 医療用で培った技術を一般用に展開しているのが作業用のHALだ。腰に装着し、重い荷物などを持ち上げようとする時にHALがアシストすることで軽く持ち上げることができる。重量物を持った時に、腰にかかる負担を減らすことで、腰痛のリスクが軽減できる。建設現場の職人の高齢化は深刻。また、介護の職場でも要介護者の移動は身体的な負担が大きい。こうした職場などでの活用が進んでいる。同社ではリース形式で提供している。業績面では営業損益の赤字が継続しているが、生産数が増えていけば黒字転換も遠くないと見られる。

抗加齢に注力するプレミアアンチエイジング

 化粧品通販、小売りのプレミアアンチエイジング(証券コード:4934)も成長期待が大きい。社名の通り、アンチエイジング(抗加齢)関連製品に注力している。売上高の7割を占める通販は自社サイトを展開。自社では強みのあるマーケティングと商品企画を手掛け、製造や物流、コールセンターなどはアウトソーシングしている。通販の会員数は約300万人。定期購入が多く、業績は安定している。テレビCMの積極化などで裾野を広げる戦略を取る。

 ブランドの中心は「DUO(デュオ)」。肌が本来持つ自己回復力に着目し、肌にとっての自然と、化学に基づいた先端技術の2つを融合したエイジングケアブランドとなっている。Kinki Kidsを登用した若年向けクレンジングバーム(洗顔料)のCMで知名度が向上した。クレンジング市場での推定シェアは首位。これを機に男性用化粧品への参入を予定している。

 「CANADEL(かなでる)」は大人の女性向けのエイジングケアブランドで、エビデンス(科学的根拠)に支えられた、こだわりの素材や成分に特徴がある。基本の肌の手入れを1回で完了する「オールインワン美容液」を展開。「美白」、「ハリ(うるおい)」、「毛穴の目立ち」など顧客の悩みに合わせた最適なアイテムを提供する。2022年4月には「美白+シワケア」の医薬部外品を新規に投入した。

 2021年7月期の売上高営業利益率は14%と収益力が高い。業績も拡大基調を継続している。現状の美容分野から、今後は本格的なアンチエイジング事業を展開していく方針。体の内部から整えるインナービューティー、ウェルネス(健康)分野などをターゲットにしており、ウェルネス分野での第1弾商品を今期中にも投入する方針を示している。

ホスピス住宅運営の日本ホスピスホールディングス

 もう1社、終末期ケアのホスピス住宅の運営や訪問看護を手掛ける日本ホスピスホールディングス(証券コード:7061)を紹介しよう。 

 ホスピス住宅は、がんや難病などで専門的な緩和ケアを必要とする患者が集まる住宅で、看護師、訪問療法士、訪問介護士が常駐し、いつでも看護介護サービスを受けることができる。「施設」ではなく「住宅」としての位置づけで、自由(自己決定)とコミュニティの中で生活することに特徴がある。24時間看護師が常駐し、食事は常駐する専任シェフが3食を提供。介護や医療食にも対応している。関東、東海、関西圏で展開している。 

 一般的な老人ホームが数名の看護師と介護士スタッフから構成されるのに対し、看護師の配置数が圧倒的に多く、介護士のほかリハビリのスタッフもおり、手厚い緩和ケアサービスの提供が可能になっている。看護師は一般病院では長時間勤務などで疲弊しているが、ホスピス住宅ではチーム連携で1人の患者にじっくり向き合えるなどのメリットがある。このため、看護師の採用も順調だ。

 ビジネス的には老人ホームは介護保険や自費サービスで多くの人数を受け入れる「規模による生産性」で収益を上げるモデル。ホスピス住宅はこれに加えて障害者総合支援、医療保険などが運営原資となるため、「小規模高付加価値」型となる。きめ細かいサービスには大規模施設(多数の利用者)は適さないが、高い単価が小規模施設を可能にしている。手厚い支援で、患者の負担増は限定的にとどまる。 

 日本では高齢化の進展で死亡人口が増加している。2039年には年間死亡者数が167万人に達するとみられている。また、がんが死亡要因となる割合は2人に1人に迫る状況だ。社会保障費の増大で日本の財政が悪化傾向にあり、病院の病床機能の見直しが進む。いわゆる「看取り難民」が増加する見通しで、ホスピス住宅へのニーズが高まることが予想される。

 業績は好調に推移している。今後も、ノウハウ蓄積で先行する同社の優位性が高まる可能性高い(関連記事:ホスピス住宅という人生最期の新たな選択肢)。

(タイトル部のImage:jamesteohart -stock.adobe.com)