Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの1つが未来の住宅「Beyond Home」で、住宅メーカーによる牽引が期待される。住宅セクターの概況と未来の住宅の胎動について、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の姉川俊幸シニアアナリストに話を聞いた。

姉川俊幸氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券インベストメントリサーチ部産業・企業リサーチ課シニアアナリスト
姉川俊幸氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券インベストメントリサーチ部産業・企業リサーチ課シニアアナリスト
2006年にメリルリンチ日本証券(現BofA証券)に入社しREIT、建設、住宅不動産業界を担当。2016年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。住宅・不動産担当となる。不動産業界での勤務経験を生かした、業界横断的なリサーチ力に定評。日経ヴェリタス人気アナリストランキング住宅・不動産部門の上位の常連で、2021年は第4位に選出されている(写真:川田 雅宏)
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大手住宅メーカー各社の決算が出揃いました。2020年は緊急事態宣言下の4~5月こそ営業活動自粛で販売が低迷しましたが、6月以降は順調に推移しています。

 住宅需要はマクロ環境に大きく左右されます。コロナ禍にステイホームの時間が長くなったことで住環境充実へのニーズが高まり、リフォームを含めた住宅取得機会につながりました。今は日米共にそうした環境面での追い風が吹いている状況です。一方、各社が付加価値を上げる提案を行ってきたことが奏功して、リーマンショック以降、戸建ての販売価格も上昇トレンドにあります。

この活況は当面続くのでしょうか?

 米国と違って日本には少子高齢化による将来的な市場の縮小という課題があり、長期的な不透明感は否めません。着工要因としては、①世帯数、②建て替え需要、③ニーズのミスマッチ──の3つが挙げられます。③は例えば、国内では空き家が急増していますが、多くは立地やスペックに問題を抱えているため、オーナーは「それなら別の場所に新築住宅を」と判断するといったミスマッチのことを指します。この3つの合計が着工数を決めるわけですが、①の世帯数が減る一方で②と③は堅調を維持しており、中期的には今のような状況が続くと思われます。

今年の3月頃から、受給の逼迫による住宅用木材価格の急騰、いわゆる「ウッドショック」が顕在化しています。好調な市場に水を差すことにはなりませんか?

 中小工務店では調達に苦慮するところも出てきていますが、大手住宅メーカーへの影響は限定的と見ています。大手の多くは既に今年度内着工分の建材を確保していますし、来年度以降についても現地や卸業者との交渉で供給の見通しが立っているはずです。

注目されるニューノーマルの新商品

昨年夏以降、各社が相次いで在宅勤務用のワークスペイスの提案といったニューノーマル対応の新商品を売り出しました。こうした新商品も業績に寄与しているのでしょうか?

 防音ルームにしたり、子どもと一緒に過ごすことを意識してワークスペイスをセミオープンにしたりするなど、各社各様の提案がなされています。中でも、うまくニーズを取り込み、業績に結び付けているのがオープンハウスです。都内の立地は良くても狭小で使いづらい土地に木造3階建ての分譲住宅を建て安価で販売することで躍進を続ける新興企業ですが、屋根裏部屋をワークスペイスにするなど限られたスペースを有効に活用したテレワーク対応の提案がはまり、住宅一次取得者層を中心に売れ行きを伸ばしています。

ニューノーマル対応としては、積水ハウスの次世代室内環境システム「SMART-ECS(スマート イクス)」のような健康配慮型の商品も出てきています。

 まさに今、注目されているのがこの分野です。きれいな空気を供給することは家族の健康を守ることに直結しますから、大きな付加価値となります。これはオフィスビルも同様で、従業員の健康管理の面から賃料の上乗せにつながります。一方で、CO2削減に向けた取り組みなどはテナント企業からすると「あればいい」程度の認識で、相応の対価を支払う状況にはなっていません。健康に関わる分野のほうが発展の余地があると言えますね。

スマートホームの成長課題

ZEH(ゼロエネルギー住宅)やIoT住宅など、次世代の住まい「スマートホーム」への取り組みも加速しています。ヘルスケアの分野では、積水ハウスが開発したHED-Net(在宅時急性疾患早期対応ネットワーク)が注目されます。

 そうですね。年間約7万人が自宅で命を落とすと言われ、これは交通事故の死者(2020年は2839人)よりはるかに多い数字です。

 例えば、ヒートショックで脳梗塞を発症した場合、今はt-PA療法という血栓を溶かす効果的な治療法がありますが、発症後4時間半以内に治療を開始する必要があります。発症者を自動感知し通報するHED-Netはこうした対策に大変有効ですが、現時点では利用者が限定されるハイエンドなユーザー向けの商品という印象です。ヒートショック対策として各社が注力しているのは断熱性を高めることで、LIXIL(リクシル)の二重サッシ「インプラス」などが販売数を伸ばしています。窓枠もアルミから断熱性の高い樹脂への移行が進んでいます。

スマートホームを目指したイノベーションは、今後の成長ドライバーになり得ますか?

 課題もあります。住宅業界には、確かに積水ハウスのようにイノベーションに前向きな企業はあります。しかし、全体で見ると多数の工法が存在する中で絶対的な存在はなく、ハイテク技術を除けば、特定の工法がイノベーションで勝ち残るという図式は考えづらい。施工業界は裾野が広いので、突出したイノベーションが起きにくいというのがジレンマです。

 また、住宅はコスト面での配慮が欠かせません。グレードやオプションを追求すればコストが吊り上がるばかりです。購入者は価格と性能のバランスを取りながら、予算の範囲内に収めていく必要があることは忘れてはなりません。

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銘柄選びの2つのポイント

個人投資家は、投資対象としての住宅セクターをどのように見たらいいでしょうか?

 住宅株の特徴としてまず挙げられるのが株価の業績連動性が高いことで、投資の際にはPER(株価収益率)などの指標が有効になります。とはいえ、人口が減少局面に入っている日本で市場全体が成長し続けるのは難しく、中長期的な投資を考えるに当たり、私が重視するのは①マーケットシェア、②海外展開──という2つのポイントです。

①のマーケットシェアで、姉川さんが中長期的に有望と考えている銘柄をお教えください。

 まさに今、急成長を遂げているオープンハウスです。営業力が強く経営戦略も手堅いことから、まだまだ伸びる余地があると見ています。株価も堅調で、目先調整が入れば、そこが買い場となりそうです。長期的にはさらなる値上がりが期待できるでしょう。これに対し、大手住宅メーカーに飛躍的なシェア向上を求めるのは無理があります。かと言って大きく下がるというわけではなく、緩やかな拡大となるのではないでしょうか。

②の海外展開の観点からはいかがですか?

 国内の販売棟数はそう多くない一方で、利益の6~7割を海外で稼ぎ出しているのが住友林業です。同社の業績は近年、米国の住宅市場に連動しています。大手各社は海外進出を加速させていますが、住友林業は、その中でも頭一つ抜けた存在です。住友林業には、他にも強みがあります。近年、大工の高齢化が看過できない問題となりつつあります。需要の縮小以上に大工不足によるボトルネックのほうが業界に与える影響は深刻で、将来に渡って大工の確保が可能な住友林業には、こうした状況が有利に働くと考えます。

(タイトル部のImage:jamesteohart -stock.adobe.com)