ドラッグストアの成長が続いている。全国401社の2019年度の総売上高は約7兆7000億円で、コンビニの7割ほどに拡大。成長の牽引役として、調剤事業や食料品販売などに注目が集まる。一方、マツモトキヨシHDとココカラファインで経営統合の協議が進められるなど、業界再編の動きも見られる。ドラッグストア業界で今何が起きているのか? JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストに聞いた。

村田大郎氏 JPモルガン証券株式調査部シニアアナリスト
野村総合研究所(NRI)在籍中に米国ノースカロライナ大学経営大学院でMBAを取得。NRI外国株式調査室、同シンガポールでの産業・企業投資調査担当を経て1998年、野村證券金融研究所で小売専門店担当アナリストに。2000年にクレディスイス証券に移籍。2010年7月よりJPモルガン証券勤務。小売担当アナリストとして20年を超えるキャリアを有し、現在も主要小売企業23社をカバーする。テレビや新聞、ウェブなどメディア出演多数(写真:川田 雅宏、以下同)

新型コロナウイルスの感染拡大により日本企業が業務の遂行や業績に影響を受けている中、ドラッグストア(以下、DS)は快進撃を続けています。

 小売セクターでは、外食や百貨店などがコロナ禍で深刻な影響を被った一方で、食品スーパーやディスカウントストアなどは緊急事態宣言による外出自粛が追い風となり売り上げを伸ばすなど、二極化が鮮明になっています。中でも、一番の“勝ち組”がDSと言えるかもしれません。

 とはいえ、DSの中でも濃淡があります。好調なのは、郊外や住宅地に比較的大型の店舗を展開し、薬やヘルスケア用品の他に食品を販売したり、調剤薬局を併設したりしているチェーンです。都市型店舗が中心で、インバウンド向けの免税品や化粧品の販売に強みを持つDSは苦戦を強いられています。

企業別に見ると、どうなっていますか?

 好調組の代表がコスモス薬品やクスリのアオキホールディングス(以下、HD)、ウエルシアHDなど。苦戦組はマツモトキヨシHD、ココカラファインなどです。ツルハHDとスギHDは都市部店舗の不振を郊外店の売り上げ増がカバーして、ネットではやや恩恵が出ている状況です。

食品や調剤に大きな成長余地

DS業界は21世紀に入ってからの20年で、店舗数が約2倍、売上高が約3倍と大きく拡大しています。現状をどうご覧になっていますか?

 2000年代は業態確立後の高成長期、2010年から2015年まで成長のスピードはいったん鈍化しましたが、2015年以降加速しています。そのエンジンとなったのは積極的な新規出店ですが、他にも調剤や食品に手を広げたこと、さらに2019年までは旺盛なインバウンド需要もありました。

2019年時点では2030年のDS市場を8兆4000億円と予想されていましたが、コロナ禍を経た今、この数字はどう変わりますか?

 コロナの影響で売り上げが減ったのは免税品や化粧品、逆に増えているのは食品と調剤です。これらを比較すると、プラスの方が明らかに大きい。食品と調剤は現状、市場規模に対するチャネルシェアがあまり高くありません。食品で4~5%、調剤で10%といったところで、まだまだ成長余力があります。結果として、コロナがあっても数年後の市場規模は8兆円を超えてくるのではないでしょうか。

食品と調剤への取り組みについて、もう少し詳しく聞かせてください。

 食品販売に積極的なのは、先ほど好調組と言ったコスモス薬品やクスリのアオキHDなどです。コスモスでは、他業態、同業者よりも明らかな低価格で必需品の食品や家庭用品を販売したり、アオキでは生鮮食品の取り扱いが始まっています。食品スーパーやディスカウントストアにとっては脅威でしょう。

 ウエルシアHDやスギHDは原則として全店舗に調剤薬局を併設しています。主として調剤を担う日本の調剤薬局には個人経営が多く、今後、事業承継の問題に直面しそうです。また、既存の調剤薬局はほとんどが門前薬局ですが、薬価協定では、特定病院への集中度が高い薬局への保険点数引き下げ、かかりつけ薬剤師への点数引き上げが、継続的に実施されています。さらに2020年の調剤報酬改定でも診療所の敷地内薬局の調剤基本料が大きく引き下げられており、顧客にとっての利便性などからも今後調剤は「薬局からDSへ」の流れが進むと見ています。

 コロナ禍で医療機関の受診を控える動きが広まり、調剤薬局が業績を悪化させたのに対し、DSの調剤部門は電話診療で処方箋が発行されるコロナの特別措置の利用者をうまく取り込み、流れを加速させています。

業界再編の速度は緩やか

ドラッグストアの成長のリスク要因は何でしょう?

 大手7社は各社が年間100店舗前後のペースで新規出店を行っています。日本のDS市場は米国と違って、企業淘汰のスピードが緩やかなので、そう遠くない将来に競争が激化し、十分な利益が確保できなくなる可能性があります。十分な売上高・粗利が取れなくなると、人件費や家賃、手数料、物流費などのコストが重くのしかかります。2021年前半は、前年のコロナ恩恵の反動で各社の利益率が落ちる可能性があります。

そうした中で業界再編がどう進むのか、気になるところです。

 ウエルシアHDやツルハHDなどM&Aに積極的な企業は、買収を繰り返しながら規模を拡大してきました。ただし、これまでの「上場企業が小さな未上場企業を買う」という図式は、未上場企業の価値の高騰で難しくなっています。かといって、大手同士の合併も想定しづらい。大手には創業オーナー一族なりしっかりした経営陣がいて、業績好調でバランスシートも強い今、あえて他社と一緒になる理由が見当たらないからです。統合や再編自体は進むと思いますが、時間がかかるでしょう。

2021年10月の経営統合を目指すマツモトキヨシHDとココカラファインは、業界初の大手同士の合併案件です。共に“コロナ苦戦組”ですが、影響はないのでしょうか?

 むしろ、統合によるシナジー効果を生み出す必要性が高まったという見方もできます。ココカラファインは収益力が課題ですが、マツモトキヨシHDとの統合で収益体質の改善が期待されます。具体的には、PBを含む商品仕入れ統合によるスケールメリット、デジタルを活用した販促などです。

クスリのアオキHDの高成長に期待

DSセクターに投資する場合、どんな点に注意すべきですか? 

 セクターの中で全ての銘柄が同じ動きをするわけではない。まずは、そこが重要です。会社によって業態が大きく異なることを理解した上で、顧客目線で自分がどういう業態に投資したいのかを考える必要があります。さらに現状、ウエルシアHDやコスモス薬品などはバリュエ-ション(株価水準)が非常に高くなっています。とはいえ、コロナの感染拡大の懸念が強まればさらに上昇する可能性もあり、投資には難しいタイミングです。一方で、株価が低位のままの銘柄には「上がらない理由」があるわけで、安いから拾っておくのではなく、その理由をしっかり見極めることが大切です。

中長期的に注目している銘柄はありますか?

 現在の株価水準は別として、今後の成長性への期待が高いのはクスリのアオキHDです。同社は郊外や住宅地の店舗に調剤薬局を併設した大型店舗を出店し、リーズナブルな価格で薬から食品までワンストップで提供しています。2018年以降は青果・精肉などの主要生鮮品をフルラインで扱う450坪/300坪型の次世代型店舗を増やしており、こうしたビジネスモデルは今、「郊外型DSの最先端」と注目されています。業界ツートップのウエルシアHDとツルハHDは既に2000店を超える店舗を有していますが、同社はまだ634店舗(7月20日現在)。同社は年間90店と、高水準の新規出店を行う予定です。母数が少ない分、高い成長率が期待できます。

(タイトル部のImage:jamesteohart -stock.adobe.com)