米国IPOから見えてくるモダリティの新トレンド

この1年半余りでも大きな変化があったのですね。他に今注目なさっているモダリティはありますか?

 私が創薬トレンドの変化を読む際に参考にしているのが、米国内に本社を置くバイオベンチャーIPOの時価総額(年間ランキング)です。バイオ技術で世界をリードする米国のバイオIPOへの投資家の評価を見れば、グローバルな創薬トレンドの変化が推測できるからです。

 例えば、2014年にバイオIPOの時価総額で1位と2位を占めたのは、今をときめくCAR-T細胞療法薬(患者の免疫機能を司るT細胞に、がんの目印を認識する遺伝子・キメラ抗原受容体を導入した免疫療法薬)を開発する企業でした。2018年の時価総額トップが前出のモデルナです。モデルナの純損益は、2020年度は7億4700万ドル(約820億円)の赤字でしたが、直近の発表では2021年1~6月期は約40億100万ドル(約4400億円)の黒字となっています。これに伴い、同社の時価総額は昨年末から今年の8月末までに約4倍に膨れ上がりました。mRNA技術でとてつもない利益を生み出した、バイオベンチャーの大成功例と言えるでしょう。

 そこで2021年1~6月期のバイオIPO40社の時価総額ランキングを見ると、3つのトレンドが見えてきます(図2)。

 第1は、1位のリカージョン・ファーマシューティカルズが手掛ける「AI(人工知能)創薬」です。AI創薬は20年以上前から注目されていましたが、なかなか成功事例が登場せず、「コンピューターでは新しいものを生み出すのは難しい」と言われました。しかし、近年のスーパーコンピューターの劇的な進化を背景に、2015年頃から創薬ベンチャーによる新薬候補物質が製薬会社にライセンスされるようになっています。バイオIPOの時価総額ランキングでも2020年からAI創薬を扱う企業が台頭してきており、今後、創薬へのAIの活用がますます盛んになるのではないかと予想されます。

 時価総額2位から7位までの企業の開発品は、大きく2つのテーマに分かれます。それが第2と第3のトレンドです。その1つが、「遺伝子改変細胞を用いたがんの治療薬」です。このはしりが先のCAR-Tであり、2014年IPOのカイト・ファーマなどから始まった技術のイノベーションがその後も続いているのです。今年上半期に上場した企業は、こうした技術の開発や、それを応用した治療薬の開発に取り組んでいます。

 もう1つのテーマが、「ゲノム編集技術と、その応用技術による治療薬の開発」です。現在の遺伝子治療は正常な遺伝子を薬として投与するもので、遺伝子を操作するわけではありません。これに対し、ゲノム編集技術を利用した治療薬では、異常な遺伝子を正常な遺伝子に修復することが可能になります。まさに“究極の遺伝子治療”です。このゲノム編集技術を応用した新たな治療薬の開発も活発に行われています。

■図2 2021年前半に上場した米バイオ企業の時価総額上位(時価総額10億ドル以上)(単位:百万ドル)
■図2 2021年前半に上場した米バイオ企業の時価総額上位(時価総額10億ドル以上)(単位:百万ドル)
(出所)いちよし経済研究所
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