外科手術において、身体への負担を軽減する低侵襲手術が進展し、手術用ロボットのニーズが拡大している。これまでその市場は、米インテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」に半ば独占されてきたが、同社の基本特許が満了を迎える中、今後は複数メーカーの参入を控える。その中でも特に注目されるのが、初の国産品である「hinotori サージカルロボットシステム」。川崎重工業とシスメックスの共同出資により設立されたメディカロイドが開発し、2020年8月に製造販売承認を取得した。2024年には約11兆円との予想もある世界の手術支援ロボット関連市場について、UBS証券の小池幸弘アナリストの見方を聞いた。
手術支援ロボットの分野は現在、フロントランナーである米インテュイティブサージカル社の「da Vinci Surgical System(以下、ダヴィンチ)」の独擅場です。2018年末時点では世界で約5400台が販売され、日本ではその8%、約400台が稼働しています。国内の普及状況をどうご覧になっていますか。
多いか少ないかと言えば、まだまだ少ないと思います。ダヴィンチは2009年に日本で認可されて以降、第1世代から第4世代のXiまで10年間で約400台が導入されました。日本には手術件数の多い高度急性期病院が約1800あります。そのトップ500に限定すれば浸透率は約80%に上りますが、高度急性期病院全体で見れば約20%に過ぎません。
導入がなかなか加速しない理由としては、以下の3つが挙げられます。
第一にコストの問題。ダヴィンチの現在のフラッグシップモデルXiの販売価格は約3億円、廉価版のXでも約2億円です。購入後も維持費がXi、Xともに年間約1000万~2000万円かかります。米国内での販売価格はXiが1億5000万円、Xが1億円ほどです。国内価格には、輸入関税やインテュイティブサージカル社の日本拠点の人件費などのプレミアムが乗せられているのです。
2番目はダヴィンチのサイズの問題です。ダヴィンチはもともと米国の医療現場を想定して開発されていますからロボットアームも大きく、小柄で華奢な日本人の手術ではアーム同士が干渉する場合があります。「サージョンコンソール」というコックピット部分もヘリコプターの操縦席ほどの広さがあります。米国は手術室が広いのでダヴィンチを置いても他の手術を行うことができますが、狭い日本の手術室だとそれが難しく、手術室の稼働率に影響します。
3番目は日本特有の問題なのですが、公的医療保険の報酬制度によるものです。日本では公的保険を使った治療がメインで、その診療報酬が病院経営を左右します。ロボット手術による加算が付かない手術であれば、病院側からすれば従来の術法である腹腔鏡手術や開腹手術のほうが経済的という判断になります。そして現状、ダヴィンチを使った手術で加算が付与されるのは前立腺と腎臓だけなのです。