証券界のトップアナリストが日本の医療の諸問題に切り込んだ『患者目線の医療改革』(日本経済新聞出版社)が話題だ。著者は日経アナリストランキング3年連続1位を獲得したキャリアを持つ、みずほ証券の渡辺英克氏。24年間にわたり医療周辺分野のビジネスを見てきた同氏に、日本の医療が抱える課題からビジネスとしての注目点までを聞いた。

渡辺英克氏 みずほ証券エクイティ調査部長・シニアアナリスト
1990年、慶應義塾大学経済学部卒業。野村総合研究所に入社し、1995年よりヘルスケア分野の企業調査に従事する。2000年、みずほ証券に入社。2015年から2017年まで3年連続で、日経ヴェリタス「人気アナリスト調査」企業アナリスト総合部門の1位に選出された(写真:川田 雅宏、以下同)

新著『患者目線の医療改革』の中で、「日本の医療制度は、(1)医療費の調達や支出の仕方といった費用の観点(医療保険制度)、(2)病院や開業医の数などの供給面(医療制度)、(3)医療費の算出法(診療報酬制度)──の3つに分けて理解すると分かりやすい」とお書きになっています。この3つの分野を踏まえつつ、日本の医療が優れている点と課題についてお聞かせください。

 優れている点としては、まず、(1)医療保険のコストパフォーマンスの良さが挙げられます。コストを見ると、「OECD Health Data 2018」では2017年の医療費対GDPが10.7%となっており、米国を除く欧州先進国とほぼ同水準です。高齢化が進んでいる割には、かなりよくコントロールされていると言えるのではないでしょうか。一方で、パフォーマンスの面では、他の先進国に比べて乳幼児死亡率は低く、平均余命は長くなっています。広くまんべんなく、基礎的な医療が施されている証左です。

 (3)の診療報酬制度では、出来高払い制と包括払い制(DPC)がうまい具合に併用されています。2年に1度実施される診療報酬の改定を通して政府が行う、目標とする(2)の供給体制への間接誘導もまずまず機能しています。

 課題は、医療費の支出と収入がリンクしていないことです。医療費の伸びは高齢化や医療技術の高度化によって決まりますから、支出は増加傾向にあります。これに対し、収入は約8割を税金と社会保険料で賄っています。経済が成長しないことには社会保険料の財源となる所得も、税収も増えていかないので、医療費にも制約が生じかねません。高度経済成長期のように経済が右肩上がりの時代ならいいのですが、近年はデフレの長期化で支出と収入のアンバランスが顕在化しています。

 もう1つの課題は、医療保険の構造が、高齢者の医療費を現役世代が負担する形になっていることです。1965年時点では20~64歳の9.1人で65歳以上の高齢者1人を支える「みこし型社会」でしたが、少子高齢化でこれが2012年には2.4人で支える「騎馬戦型社会」になり、2050年には1.2人で支える「肩車社会」が到来すると予測されています。健康保険組合連合会に属する大手企業社員の健康保険料は2019年まで12年連続で上昇しており、平均保険料率は既に9.218%という高い水準にあります。長期的には、運営を維持できず解散に追い込まれる健康組合が増加すると見られ、こうした世代間の問題の見直しも急務でしょう。