新薬開発で失敗が続いてきた理由

アデュヘルムの他にも今後、アミロイドβ仮説による有望な新薬候補が続々出てくるということですか?

 エーザイがバイオジェンとアルツハイマー型認知症研究に取り組む中から生まれた別の抗アミロイドβ抗体「レカネマブ(開発品コード:BAN2401)」も、第三相臨床試験(フェーズⅢ)の結果が2022年の7~9月に開示される予定です。スイスの製薬大手ロシュが開発した「ガンテネルマブ」は、フェーズⅢの試験が2022年後半に終了予定です。もう1つ、米製薬大手イーライリリーの「ドナネマブ」はフェーズⅡを終えたばかりで、フェーズⅢの結果が出るのは2023年以降になりそうです。

アミロイドβ仮説の他にも有力な仮説がありますか? 最近よく耳にするのがタウです。

 タウは、神経細胞がネットワークを形成し、情報を伝達するのに必要な軸索(神経細胞の長い突起部分)を支える“微小管”を構成するタンパク質です。アルツハイマー型認知症は、このタウの異常な脳内蓄積が原因とする仮説もあります。タウとアミロイドβは近しい関係にあり、アミロイドβ仮説に立脚した開発を行う製薬会社でも、並行して抗タウ抗体の開発を行っている企業があります。バイオジェン然り、エーザイ然りです。しかし、抗タウ抗体の方は現状、フェーズⅡ試験などで良好な結果は開示されておりません。

この20年ほど、アルツハイマー型認知症の新薬開発は失敗が相次ぎました。優に100を超える新薬候補が消えています。なぜでしょう?

 理由は大きく2つあります。

 1つは、先ほども言ったように原因物質が特定されていないことです。試行錯誤を重ねてきた中でも、現状では有力な仮説は乏しい印象です。

 もう1つ、アルツハイマー型認知症は患者数が多い半面、MCI(軽度認知障害)を含め早期段階の患者を確定診断することが難しいことから、「治療薬を投与することで進行を遅らせることができる」という有効性の評価が難しい面もあります。

そうした中で、日本の製薬会社の取り組みをどう評価されていますか?

 日本ではアルツハイマー型認知症薬の開発に注力している企業は少ないですね。なぜかと言えば、成功確率が低いから。成功確率は低い上に、失敗すれば、それまでの研究開発費が無駄になってしまいます。そのリスクがとれる会社が日本では海外と比較して相対的に少ないと考えられます。

 この分野では国内の第一人者であるエーザイも、単独で研究・開発を行うのではなく、バイオジェンと共同で開発と販売を行う契約を交わし、共同開発してきています。