岐路に立つ「アデュヘルム」

そうした中で登場したのが“希望の星”アデュヘルムですが、残念ながら、最近はあまりいい話が聞こえてきません。例えば、米国での7~9月期の売上高はわずか30万ドル(約3420万円)にとどまりました。

 治療薬として浸透していくには、まず保険適用が前提になります。現在、CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)は、アデュヘルムを含めた抗アミロイドβ抗体を全米で統一して保険適用にすべきか調査中です。オフィシャルな見解は2022年4月12日まで、中間報告(ドラフト)は同1月12日までに開示予定ですが、シンプルに保険適用か、保険適用外かという二択ではなく、「保険適用だが対象患者・使用方法に制約を設けるべき」といった結論もあり得ます。

 保険適用は市場浸透のための契機となり、されないと困るわけですが、仮にされたとしても、それだけで市場に浸透していくとも限りません。病院や医師によっては、自分の患者にアデュヘルムを処方しないという姿勢を鮮明にしています。その理由として指摘されているのが、科学的根拠の薄弱さです。

 エーザイとバイオジェンはフェーズⅢで大規模臨床試験を2つ行いましたが、結果として再現性は確認できませんでした。一方は偽薬と比べて臨床症状を改善することで有効性を確認することができましたが、もう一方では確認することはできませんでした。しかし、沈着したアミロイドβを脳内から除去する効果が治療効果の代替評価項目として認められ、「迅速承認制度」に基づく条件付きの承認を受けました。両社は、追加試験で治療効果を改めて証明する必要があります。

 とはいえ、処方するかどうかの判断は病院や医師に委ねられておりますので、保険が適用されても医師への啓蒙活動が今後のハードルとなる可能性があります。

 加えて、アデュヘルムには薬価の問題もあります。米国での治療費は患者1人につき年間で5万6000ドル(約638万円)に上ります。米国ではアルツハイマー型認知症患者の約8割は高齢者なので、公的保険から給付を受けられますが、高額な治療費を対象者に制約なく保険償還することは現実的ではないと言えます。

 結果として、薬価を引き下げるか、対象患者数を絞るかのどちらか、もしくは両方の手段によって、保険財政に与える影響を減らす必要があります。

アデュヘルムは欧州での承認申請が山場を迎えていますが、ネガティブな見方が大勢を占め、11月にはエーザイの株価が急落した場面もありました。欧州や日本での承認はどうなりそうですか?

 先ほど、米国で条件付きの承認を受けたと話しましたが、迅速承認制度は米国だけの制度になります。よって、欧州も、日本も、仮置きではなく本承認の可否を決定する必要があります。

 欧州は12月第3週目に開催される委員会で承認可否を決定する予定です。日本では2020年12月に承認申請を行っているので、来年2022年2月以降に開かれる厚生労働省専門家部会で製造・販売の可否を審議することになるでしょう。

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