日本ホスピスホールディングスは、2019年3月、東証マザーズに上場した。「在宅ホスピスの研究と普及」をミッションとして掲げる同社で、現在、事業の核となっているのは「ホスピス住宅」。末期がんやALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病で人生の終末期を迎えようとしている人々のための共同住宅だ。

小田原市にあるファミリー・ホスピス鴨宮ハウス(出所:日本ホスピスホールディングス)

 「人生の最期を自宅で過ごすような気持ちで暮らしてほしい。そのためのお手伝いをしたいという思いでビジネスを立ち上げました」と代表取締役社長の高橋正氏は話す。

 入居者は末期がんの患者が5~6割、難病が3~4割、その他が1割。大部分が治療を受けていた病院から紹介を受けてやって来る。治すための治療ではなく、痛みを和らげるための適切な緩和ケアを受けながら、質の高い療養生活を過ごせる場所という選択肢をホスピス住宅は提供する。

 厚生労働省が実施した終末期の医療に関する意識調査(2017年度)の結果によれば、人生の最期を迎えたい場所を考える際に重視することという問いに対して「家族などの負担にならないこと」と答えた人が73.3%ともっとも多く、「体や心の苦痛なく過ごせる」が57.1%で続いている(複数回答)。

代表取締役社長の高橋正氏。1962年生まれ。医療・福祉施設の建築設計に携わった後、高齢者住宅の運営に関わる。2012年カイロス・アンド・カンパニーを創業、訪問看護ステーションとホスピス型住宅を組み合わせた事業を開始。2014年名古屋のナースコールを事業継承し、2017年1月日本ホスピスホールディングスを創立(写真:高田 浩行)

 これまで多くの人が病院で死を迎えていたが、厚労省は、自宅や介護施設での「看取り」を今後は推進する方針を示している。病院も入院日数を短くする方向にあり、一定期間を過ぎると退院せざるを得ない患者も多い。だが、末期がんや難病の患者の場合は、痛みを緩和する医療が必要なので受け入れられる施設は少ない。自宅での療養は家族の負担が大きくなる。「家族の負担にならず」かつ「体や心の苦痛なく過ごせる」場所の選択肢は、現状ではそれほど多くない。

看護師の思いや、気づき、マネジメントが重要な要素

 在宅ホスピスの運営でチームの中心となっているのは看護師だ。地域の医師と連携しつつ、看護師が中心となって、介護やリハビリの専門スタッフとチームケアを実施する。看護師の思いや、気づき、マネジメントが、質の高い療養生活を実現する重要な要素になっていると高橋氏は語る。

看護師を中心に、介護士やリハビリスタッフなどがチームを組んでケアにあたる(出所:日本ホスピスホールディングス)

 「ホスピス住宅には訪問看護ステーションが設置されており、看護師とは24時間いつでも連絡がとれる態勢になっています。患者さんの生活に寄り添い、一人ひとりの症状を細かく看ながら痛みを和らげるケアを施していく。看護師には、ベッドサイドで患者のために尽くしたいという思いを持つ人が多いのですが、大病院では医師のサポートなどに忙殺され、ひとりの患者さんを看取りまでしっかりとケアをすることができない状況にあります。大きな病院ではなかなかできない看護師の役割を果たしたいと、転職してくるスタッフも多いですね」(高橋氏)

 病気を治すためのキュアと終末期のケアは全く違う。「ホスピス住宅はがんや難病の緩和ケアに特化しており、その経験やスキルを持つ看護師たちが、私たちを必要としている人たちがここにいるという思いを強くするようです」(高橋氏)。

患者一人ひとりの食事についても綿密な打ち合わせを行う(出所:日本ホスピスホールディングス)

自宅に居るような“くつろぎ”を提供

 きめ細かな医療的サービスに加え、自宅に居るような雰囲気の中で過ごせるのもホスピス住宅の特徴だ。賃貸住宅という位置付けなので、家族はいつでも自由に訪ねてくることができる。

 「自宅療養は家族への負担が大きく、家族が看護で疲れてしまうケースが多い。一方、病院や施設だと、面会する時間が限られ、家族の居場所もない。ホスピス住宅では、家族が自分のペースで通うことが可能です。それぞれの居室にはリビングコーナーがあり、ソファベッドも備えているので泊まり込むこともできる。患者さんが家族と一緒に最期の時間をどう過ごすか、自分で決めることができます。安心できる医療サービスと、自宅に居るようなくつろぎの両立が質の高い療養生活には必要だと思います」(高橋氏)

 1棟あたりの居室数は20から30室。きめ細かなサービスを実現するため、建物の規模は大きくない。食堂を中心にして各階に部屋が配置されている住宅もあり、そこでは食事時には、6室ほどの住人がひとつのテーブルを囲むような設計になっている。

(左)団欒できるよう共用スペースには大きな無垢材の食卓を設けている。(右)専属の調理師が一人ひとりに合った食事を作る(出所:日本ホスピスホールディングス)

 「各自の部屋にいても食卓の賑わいが聞こえてくる。まさに『おうち』にいるような雰囲気ですね。プライバシーは尊重するけれど、それぞれが孤立しているわけではなく、生活の音が部屋に届く。自分がコミュニティの一員であると感じられることも、患者さんにとっては大切なことだと思います」(高橋氏)

2020年には関西にも進出

 日本ホスピスホールディングスは、2019年8月末時点で、関東に7棟、中部地方に6棟のホスピス住宅を展開している。2020年には関西でのオープンも目指している。

 「がんや難病の患者さんは、高度医療を求めて大病院に集まってきます。病床500以上の大病院は、東京、名古屋、大阪に集中している。我々のサービスを必要としている人々もそこに集まっている。また、家族が通いやすい場所にホスピス住宅があるということも重要だと思います。ひとつの地域に小さな拠点が多くあるほうが、自分の生活圏に近いところに入居しやすいでしょう。一地域に集中するドミナント戦略をとるのには、そうした意味合いもあります」(高橋氏)

 地方都市、政令指定都市、中核都市を中心に全国展開も視野に入れているが、当面は3大都市圏での事業展開を優先的に行う予定だ。将来的には、ホスピス住宅を拠点に、より地域に根ざした在宅ホスピスサービスを提供していくことも見据えていると高橋社長は語る。

(写真:高田 浩行)

(タイトル部のImage:Anton Gvozdikov -stock.adobe.com)