マンモグラフィ(乳房X線)や超音波エコーなど現行の乳がん検査装置が抱える課題の解決を目指した、いわゆる“次世代乳がん検査”の技術開発が活発になっている。例えば、スタートアップのLily MedTechは、360度あらゆる方向から超音波を放出・反射、受信し、技師のスキルに依存せず高精度な超音波画像を取得しようとする「リングエコー」の開発を進めている(関連記事)。一方、そもそもX線や超音波を使わずに乳がん組織を映像化しようとする技術の開発を、神戸大学発スタートアップのIntegral Geometry Scinenceが進めている。

 2019年9月、Integral Geometry Scinence(以下、IGS)は記者会見を開催し、協力関係にある凸版印刷など8社・1個人と資本提携し、計20億円を調達したと発表した。電子レンジなどにも使うマイクロ波を活用した、「マイクロ波マンモグラフィ」と呼ぶ開発装置の実用化にめどが立ったことから、新たな資金を得て製品化と普及を一気に加速する。早ければ2年後の2021年にも登場する見込みだ。

2019年9月に開催された記者会見で語る、神戸大学数理データサイエンスセンター 教授で、Integral Geometry Scinence CSOの木村建次郎氏(写真:行友 重治)

 IGSが手掛けるマイクロ波マンモグラフィとはいかなるものなのか。その特徴を見ていく上で、まずは、現行の乳がん検査装置について触れていこう。

現行の乳がん検査装置の課題とは…

 現在、乳がん検査に用いられている画像診断装置には、マンモグラフィ、超音波エコー、MRI、PETなどがある。検診にはマンモグラフィと超音波エコーが主に用いられる。

 マンモグラフィは、X線を乳房に照射して透過像をフィルムやデジタルセンサーで画像化する。現在のところ、検診による死亡率の減少効果が科学的に確かめられた唯一の検査法だ。医師が目で見たり手で触れたりすることでしこりやがんによる変形を判別する視触診に代わり、世界中で乳がん検診の標準検査法となっている。

 整形外科で骨折などを調べるX線装置は透過力が高く、筋肉や脂肪など柔らかい組織の検査には向いていない。このため、マンモグラフィでは透過力の低いX線を用いる。この場合、脂肪は透過しやすいので黒く、乳腺、繊維組織などは透過しにくいので白く写る。がん組織も乳腺などとほぼ透過度が同じで白く写る。

 ところが乳腺が多い乳房では大部分が白く写ってしまう。放射線診断分野では、白い部分の多さによって乳房を4段階に分類しており、上位2段階を「高濃度乳房(デンスブレスト)」に分類している。高濃度乳房は若い人に多く、また白人に比べるとアジア系で多い。65歳以上の白人では高濃度乳房は35%だが、35-49歳のアジア系では実に79%を占めるという研究報告もある。

 マンモグラフィが乳がん検診の要であることに変わりはないが、日本人女性の場合、この検査だけではかなりの比率でがんの発見が難しい人がいることになる。また、被曝と検査時の痛みという問題点もある。マンモグラフィの検査時には乳房を圧迫し、薄く延ばす。これは乳腺の重なりを減らし、病変を見つけやすくするのと、厚みを減らすことでX線量を減らすのが主な目的だが、強い痛みを訴える人が少なくない。

 一方、乳がん検診には超音波エコーも用いられる。超音波エコーはプローブと呼ばれる送受信アンテナを乳房に当てて超音波を発信し、跳ね返ってくる超音波を受信して映像化する。超音波は脂肪、嚢胞、筋肉など組織によって音の伝わり方が異なり、組織の境界で強く反射する性質がある。この性質を利用して病変を見つけることができる。

 周波数が高いほど空間分解能が高くなり、微小ながんでも発見できるが、周波数が高くなると減衰度が高くなるため、深い部分の小さながんを見つけるのは難しい。また、プローブの当て方など技師のスキルによって画像が大きく変化し、画像の再現が難しいという課題がある。