女性活躍推進法が施行されて4年がたち、企業などでの女性の存在や活躍が目立つようになっている。今や、出産や育児休暇後に職場復帰するのは当たり前だ。一方で、女性の健康ケアに関する社会認知や対策が追いつかずにいる現状も浮き彫りになっている。例えば、妊娠に至るまでの、あるいは中高年期の女性の健康ケアだ。「女性への一生を通じた切れ目のないケア」の必要性を訴え、思春期から妊娠までの若い女性の健康を支援するプレコンセプションケアの拠点を立ち上げた、国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター母性内科診療部長の荒田尚子氏に話を聞いた。

(聞き手は西村尚子=サイエンスライター)

まず、日本では、いまだに社会に認知されていない女性の健康課題が数多くあると思いますが、先生はどのようにお考えですか。

 ご存じのように2015年に「女性活躍推進法」が施行され、出産や育児後に復職する女性が増えてきています。このこと自体はたいへん素晴らしいことですが、過渡期にある企業や当事者の女性は混乱の渦の中にあります。大きな要因は、これまでは多くの女性が産休や育休後に退職していたので、社内には30〜40代の子育て女性社員があまりおらず、この世代の女性社員への対応経験が少ないことにあります。妊娠、出産、子育てをしながら働く側としては、上司に相談したい、助けてもらいたい、ということが山のようにあるでしょうが、肝心の上司には、話をどう聞き、どう対応し、自分がどう動いたらよいか分かっていません。結果、コミュニケーションが成り立たず、様々な課題が潜在化してしまっています。

 もちろん、対策や整備を始めている大企業もあると思いますが、中小企業、特に地方においては、そこまで手が回っていないのが現状でしょう。企業は、女性の体調を理解して適切なケアを提供できれば、女性社員のパフォーマンスを上げることができます。加えて、生まれてくる子どもの健康を守ることにもなり、医療負担を抑えることにもなります。

 逆に、妊娠中の社員が無理をして働き、例えばですが、子どもが超低出生体重で生まれることになれば、その子が成長するまでに多くの医療やケアが必要となります。企業はそろそろ、女性社員の妊娠前・妊娠中のケアの重要性に早く気づくべきです。仮に、前述の例で、新生児集中治療室(NICU)での治療が必要となれば1000万円以上の医療費がかかり、それを企業(健康保険組合など)や自治体が負担することになるのです。もちろん、社員や社員のご家族の心身の負担も計り知れません。さらに、女性社員が中高年期に入れば、更年期障害、がん、認知症、家族の介護の問題などを抱える事態もやってきます。

なぜ、このような状況に陥っているのでしょう?

 まず、あらゆる医療、つまり、薬の開発、診断、検診方法などが、全て男性を中心にやられてきたことがあると思います。日本に限ったことではありませんが、薬の量を決めるための臨床試験では妊娠可能年齢の女性を対象にしないのが当たり前でした。必要量も薬に対する反応も男性とは異なるのに、女性は男性を対象にして決められた量や方法で薬を投与されているのです。

 また、日本の企業で盛んに行われるようになっているメタボ検診は、40代以降の中年男性を念頭に置いたものです。女性で40代といえば、主な問題は肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームではなく、月経をめぐるトラブルや乳がん、子宮頸がん、心の病気などです。主婦に至っては、検診の機会そのものがなく、何年も放置したままという方がざらにいます。先進国では、性差をきちんと理解した医療が導入され始めていますが、日本ではなかなか普及が進みません。