「女性の生き生きをサポートするテクノロジー」。こう題したパネルディスカッションが、「HIMSS & Health 2.0 Japan 2019」(2019年12月9~10日に東京都内で開催)で実施された。生理管理アプリを開発する独Clueが提唱した「フェムテック」(femaleとtechnologyを組み合わせた造語)をキーワードに、議論が繰り広げられた。

共通の課題は「きちんと知られていないこと」

 モデレーターは、ランドリーボックス 代表取締役の西本美沙氏が務めた。パネリストとして登壇したのは、HERBIO 共同設立者兼CROの丸井朱里氏、エムティーアイ 執行役員 ヘルスケア事業部 ルナルナ事業部長の日根麻綾氏、リクルートライフスタイル 事業開発ユニットプロデューサーの入澤諒氏、Lily MedTech 代表取締役の東志保氏である。

 なぜこの領域で製品開発をしたのか、今持っている課題は何か、今後どんな分野と提携できたら有効と考えているか――。西本氏がこうしたテーマを提示、それにパネリストが答えていく形で進行した。

モデレーターを務めたランドリーボックス 代表取締役の西本美沙氏(写真:宮川 泰明、以下同)

 パネリストが活躍する領域はそれぞれ異なるものの、共通して訴えていたのは「きちんと知られていないこと」の悩みだ。例えば、基礎体温は女性がいわゆる「妊活」をする際に測るよう医療機関から求められることが多いが、本来は男女問わず体調管理に利用できるデータだという。

 しかし、その有効性が一般には知られていない。そのため、「基礎体温は女性が測るものという認識の人が多い」と丸井氏は語る。

 日根氏は、「生理はタブー視される傾向がある」と指摘する。「女性の芸能人などが『生理』というワードを表に出しただけで炎上してしまうこともある。こういう世間の感覚は変えて行きたい」(同氏)とする。

「男性全体の意識変容までつなげたい」

 フェムテックは、女性を意味するfemaleという言葉が入っているものの、「女性の生き生き」は女性だけの問題ではないという点にも議論が及んだ。

パネルディスカッションの様子

 パネリストとして登壇したHERBIOが開発する、へそで基礎体温を測るデバイス「picot」は、前述のように男性が利用する意義もある。同じくパネリストのリクルートライフスタイルが手掛ける精子セルフチェックサービス「Seem」は、男性向けでありながら結果として女性の生き方に関わってくる。

 パネリストで唯一の男性となった入澤氏は、「妊活にもっと男性が積極的に関わってほしい」と強調する。「Seemを使ってもらうだけでは私達の活動としてはまだ不十分で、男性全体の意識変容までつなげたい」(同氏)と展望した。

 こうした話を受け、モデレーターの西本氏は「フェムテックを女性だけのものにしてしまっては、男女間の溝を生んでしまう恐れがある。ここは課題にしなければならない」と語った。

面倒な計測方法が何十年も変わっていない

 このセッションでは、各パネリストが手掛けているフェムテック関連の取り組みも紹介された。

 HERBIOの丸井氏は開発中の「picot」という体温計を紹介。へそを計測部位として基礎体温を測る点が特徴だ。基礎体温は朝起床した時に舌下で計測する方法が一般的。ただし、手間がかかるため継続できない課題の解決を狙ったという。

HERBIO 共同設立者兼CROの丸井朱里氏

 picotは寝ている間に連続的に計測し、アプリで自動的に記録できる。少ない手間で自分の基礎体温を知ることができると強調する。「体調のリズムを知るには基礎体温が大切。測るのが面倒で続けられない人が多い中、計測方法は何十年も変わっていない。そこを変えたいと思った」(丸井氏)。

 エムティーアイの日根氏は、生理日管理アプリ「ルナルナ」を紹介した。過去の生理日の記録から生理周期や次の生理日を予測するなど、体調管理に役立つ情報を表示できる。「妊娠希望モード」に切り替えると、様々なデータから妊娠しやすい日を予測して表示する機能なども利用できる。

エムティーアイ 執行役員 ヘルスケア事業部 ルナルナ事業部長の日根麻綾氏

 医療機関向けの「ルナルナ メディコ」は800件のクリニックや産婦人科で導入されているという。「ルナルナは来年で20周年。今後は、もっと総合的にライフイベントに絡めて女性をサポートしていきたい」(日根氏)と語った。

精子観察から生活環境への意識変化も狙う

 リクルートライフスタイルの入澤氏は、精子のセルフチェックサービス「Seem」を紹介した。不妊治療をしているケースのうち、男性側に原因がある場合は全体の半分近くにもなるという。しかし、「男性は女性に比べて病院で検査を受けるなど不妊治療に参加するのが遅くなりがち」と同氏は指摘する。

リクルートライフスタイル 事業開発ユニットプロデューサーの入澤諒氏

 そこで、自宅で手軽に精子のセルフチェックができるキットとして開発したのがSeemだ。キットの顕微鏡をスマートフォンにセットし、カメラで動画を撮影すると精子の濃度と運動量が測定できる。この時、基準値よりも数値が低ければ男性側に原因があるということになる。精子の状態は生活環境などで改善できるため、そうした意識改善にもつながるとした。

 Lily MedTechの東氏は、超音波を用いた次世代の乳がん画像診断装置「リングエコー」を開発している(関連記事:「リングエコー」で乳がんに挑む、今こそやり返すチャンス)。現行のマンモグラフィーは乳房を押し潰してX線撮影するが、リングエコーは乳房を押し潰す必要はなく、もちろん被曝もない。従来の超音波エコーに対して、技師の技術によるばらつきを防げるのも特徴だ。

Lily MedTech 代表取締役の東志保氏(中央)

 乳がんは、他のがんに比べて比較的若い女性に多いが、日本は検診率が低い。「乳がんは早期発見できれば生存率が非常に高い病気なので、(この技術で)もっと検診率を上げたい」(東氏)と語った。

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