集めたゲノムデータを様々な健康データと突き合わせる

 現在、日本企業は大きな市場環境の変化にさらされ、従来の終身雇用を維持する体力はなくなりつつある。東芝は皮肉にもそうした中で、不正会計にのめり込み、1万人規模のリストラを行った。いわば、従業員を裏切ったのかもしれない。背水の陣として打ったのが、従業員へのゲノム募集。人心が離れておかしくはない従業員が、究極の個人情報とも言われるゲノムデータを寄せてくれるのか。高いハードルを越えられるのか、東芝チームは挑戦のただ中にいると言える。

 一方で、東芝から目を離し、俯瞰的にみれば、日本が遅々として動かなければ、座して死を待つのみなのだ。米澤氏は、「自分たちだけでやるばかりではなく、企業と組んでやることも考えている。同意を得て、ゲノムデータを預かり、10万人規模くらいまで集めれば、疾患のリスク分析などに活用していける。生活習慣や問診、投薬履歴などが同じフォーマットで集められているのは大きい。終身雇用という日本の企業風土だからこそできること。世界的にもまれな状況にあり、企業が持つ医学的なデータの塊」と言う。それを生かす動きが加速する可能性がある。欧米では将来に向けてデータを集めようとしているが、日本では過去に膨大なデータがあり、それをゲノムデータに突き合わせるアプローチが取れるわけだ。

 そこに日本が勝つわずかなチャンスがあるのではないか。それが東芝チームが見る未来である。

 今後、東芝は集まってきたゲノムデータと、様々な健康データを突き合わせて、ゲノムデータのバラツキが示している意味を見つけ出していく。そうした全体像はデータが集まるほどに精緻なものになっていく。そこで得られる解析のアルゴリズムは、連携先の企業が増えれば、より充実させることができる。東芝ばかりではなく、日本のあらゆる企業と連携も可能だ。

 その上で、米澤氏らが強調するのはデータの信頼性。「医療や健康に活かそうとしたときに重要なのは、実際に分析に用いたデータが信頼できるどうかだ。寄って立つデータが間違っていては、最終的な判断も狂いが出る。東芝が、生産技術を応用して、解析のプロセス改善をしており、データの品質についても工場での生産管理の考え方を入れ、サンプルの取り違えを防ぐといった基本的なトラブルを回避する仕組みがある。データの品質をあらかじめ高めていることが大きい。ゲノムデータの信憑性が注目された場合に、品質を証明する基礎データが存在している」(雨宮氏)。

東芝研究開発本部本部企画部ライフサイエンス推進室長の雨宮氏
 これからゲノムデータから得られた情報を活かしたビジネス構築が進むことになる。ここで生まれた情報が使える分野は、個人への健康アドバイスから、予防へのソリューション提供、病気の予測、薬の効きやすさの判定など多岐にわたる。