効率化で新しい価値を生む

 そうした検査を実現するために、この臨床研究を主導した腫瘍センターゲノム医療ユニット教授の西原広史氏らが徹底的に進めたのはコストカットだ。慶應大学病院では、患者自己負担のがん遺伝子検査「PleSSision(プレシジョン)」を77万円で提供していた。これをベースとして、研究目的として無料で検査を行うための方策を練る必要があった。

 まずは院内で自前の検査を行えるようにした。従来のプレシジョン検査では、米国病理学会(College of American Pathologists:CAP)の承認を取得した臨床検査センターに依頼して検査をしていた。プレシジョンラピッドでは外注せずに院内で体制を整えて、自前で検査に深く関わることでコスト抑制の道を探りやすくした(表1)。

表1●「PleSSision」と「PleSSision-Rapid」の比較1)

 さらなる特徴は、一般的に行われる血液と腫瘍の双方を調べる「ダブルチェック」を省いたこと。血液のDNA(デオキシリボ核酸)と腫瘍のDNAを比べられると、同じ人でも腫瘍だけに見られる変化、または親から受け継いだ遺伝性のがんにつながる変化を確かめられる。そうした比較は行えればより検査で分かる情報を増やせるが、あえて腫瘍のDNAだけを調べることにして、その点での効率性を優先した。

 このほか専門外来での患者への説明や報告書の返却もしていない。主治医だけに検査結果を伝える形に、煩雑な手続きを減らして費用を圧縮した。こうして検査のコスト圧縮の余地を探りつつ、結果として患者に無料で検査を提供できるめどを得た。

 従来、日本では自費診療でがんの遺伝子検査が行われてきたが、検査費用は高額であり、実施件数は限られていた。それが慶應大学病院では半年で1000件に到達。検査件数は急拡大することになった。