ゲノムデータが全ての医療を左右する時代に

 1980年代に産科での出生前診断に関わったところから遺伝子の研究へと道を歩み始めた松本氏は、遺伝学を専門としようと臨床医から研究者へと道を転向しようとしたとき、「なぜそんな道を選ぶのか」といぶかしむ声を聞いたこともあったという。難病は治療対象になり得ず、研究を突き止めても無駄だと受け止められたのかもしれない。松本氏は、「人生で一つくらい、遺伝病の遺伝子を特定できれば」と願っていた。

 しかし、時代は変わり今やゲノムデータが全ての医療を左右するまでになっている。全く新しい発想から、医療の概念が大きく変化しているといっていいだろう。難病研究での蓄積はそこで生きてくる。松本氏の言う「パラダイムシフト」とはこのことを指すのかもしれない。

 松本氏は2011年からは国で指定された国内5カ所の網羅的遺伝子解析拠点の一つを運営。2018年からゲノムばかりではなく、タンパク質なども含めた解析を行うオミックス解析拠点に。横浜市立大学ではメディカルゲノムセンターを設置。その中に、遺伝子診療科、がんゲノム診療科、そして2019年から難病ゲノム診療科を置く。大学内の遺伝子研究を横串で指す役割を果たしている。「横浜市立大学でも1万5000人分近くのデータを蓄積しており、今は世界で見ても悪くない位置だがこれからは分からない」と、松本氏は危機感を募らせる。

 厚労省は2019年10月、「難病に関するゲノム医療推進に関する検討会」を開催。難病医療へのゲノム活用を進める方針を固め、12月20日には「全ゲノム解析等実行計画」を発表した。がんと難病を対象として最大10万人規模の患者の全ゲノム解析を実施する計画だ。松本氏らもオミックス解析拠点の一つとして難病研究をリードすることになる。

 世界を変えるためには大胆な発想が欠かせない。既存の考えに縛られて、変われないのは愚かしいことかもしれない。医療従事者ばかりではなく、国の医療に関わる全ての人が、医療提供の形を変えようという発想転換が必要。そこに向けた啓発も大切。イノベーションはそこから始まる。


(タイトル部のImage:kras99 -stock.adobe.com)