ゲノムデータは、疾患リスクに関する遺伝的特徴を推定することができるため、個人とひも付けられると雇用や保険、婚姻等における差別につながる恐れがある。遺伝情報の法的保護や倫理上の問題に対して日本では法による規制はないが、今後必要となるのか。生命倫理学が専門で、『ゲノム編集と細胞政治の誕生』『バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体』などの著書がある県立広島大学准教授の粥川準二氏に聞いた。

 「ゲノムデータを巡る倫理問題で最も重要なのは差別の問題。何か1つのことで解決できるものではない。対策の選択肢の1つとして法律があるという位置づけで法制化を捉えている。問題を検討しつつ、対応の仕方を更新し続けなければならない」と粥川氏は言う。

 目下、同氏が問題とみるのは、倫理的な問題と経済的な利益との相反がある場合に、経済的利益を優先する論調になりやすい傾向が感じられること。差別を防ぐ対策が後回しになる事態は避けるべきだろう。ゲノムデータを用いる事業が広がり、ゲノムデータに関わる差別などへの対策が求められている。「経済的な利益に偏ると、何らかのトラブルを起こしたときに、経済面、研究面の利益をいずれも損なう恐れがある。遺伝子活用自体への悪い印象が生じる可能性も。焦らずに倫理的な課題を見据えつつ研究開発をしたほうが、長期的には利益につながるはず」とみる。

 一方、ゲノムデータを利用することで、病気の診断や治療、予防などの医学的な恩恵を受ける人が多数存在することも確か。粥川氏は「倫理的な問題を過度に恐れて、ゲノムデータ収集など研究が滞り、診断や治療、予防の手段が登場する時期が遅れるケースもまた倫理的な問題といえる。バランスを取る必要がある」とも指摘する。「倫理的な問題はゼロにはできない。様々な要素を天秤にかけつつ、患者やその家族の利益を最大化する。生じ得る問題には適切に手を打たなければならない」

県立広島大学准教授の粥川氏(写真:古田 麗=studio LUCUSS、以下同)