元官僚として抱く少々複雑な思い

 (3)の街・コミュニティーへのエンパワーについては、少し唐突な話をしますが、私は、2019年に出馬した福岡県知事選挙の過程で県内全市町村をくまなく回った際、弱体化している自治体をたくさん見ました。産業がない、仕事がない、人がいない、もちろん子供もいない、そしてお金がない――。そんな自治体が県内60市町村のうち半分以上占めていた印象です。日本全体ではそういうところが相当なボリュームになっているわけですから、エンパワーに当たっては大胆な地方優遇策を取り入れるべきだと感じています。

 例えば、政府の「国家戦略特区」(特区)制度の運用方法の見直し。特区は規制緩和を地域限定で進めるものですが、認定要件のハードルが高く、弱っている自治体にはかなり使い勝手が悪い。そこで、優遇策として、「届け出制」にして、要件も緩めるなど、柔軟な運用を認める。

 この見直しに合わせ、届け出の際にはその地域で住民投票制みたいなものを取り入れてもいいかもしれません。現行制度では、国は特区の認定に当たって、それをやると公平性が保てないとか、公衆衛生上問題があるだとか、様々な理由を付けては特区提案をつぶしにかかりがちです。けれど、住民投票をして、「その地域がいいと判断を下したものはやってもらって構わない、その代りリスクも負ってもらう」という具合に特区自体の仕組みを大きく変える。

 住民投票以外にも、規制改革に関して私はもっとグローバルな基準を導入するべきではと思っています。ほかの国でできているのに日本ではできないものがある。それを特区提案する際には、なぜやるべきだと考えるかの立証責任を提案者側が負い、対して規制官庁などがケチをつけてくる。けれど、少なくとも先進国でやっているところがあるのだったら、なぜ日本でできないか、つまり「グローバル・ベンチマーク」の仕組みを入れ、できない立証責任を規制官庁側が負えばいい。そんな風に考えています。

 この先、どの街・コミュニティーでも取り組んでおくべきなのは、地域全体で高齢者や障害者、認知症当事者やその家族らを支えられる体制づくりでしょう。団塊の世代が75歳以上になる2025年が迫る中、医療や介護のニーズはますます高まり、医療機関や介護施設だけで十分な対応はしきれないのですから。地域で見守るなどとよく言いますが、みんながケアに何らかのかかわりをしていかないと。

 面的にサポートする人たちをどんどん増やしていく意味で、福岡市では今、認知症のケア技法である「ユマニチュード」を全面的に市民に広げる活動を展開中です。もともと2016年度から介護施設職員や家族介護者らを対象にこの技法を用いた研修や講習を行ったところ、効果の程がわかり、まちぐるみの対策としたわけです。一般市民に加え、市内の小中学校への研修も始めています。ベースを認知症対応とかにしておかないともうやっていけない時代はすぐそこですので。

 最後に、ここまでずっとエンパワーの話をしてきましたが、元官僚としては少々複雑な思いもあります。冒頭述べた通り、日本の公的医療保険や介護保険の制度はしっかり作られていて、世界的に見ても高いレベルなのは間違いありません。けれど、制度をきめ細かくつくり上げてしまったことが個々のプレーヤーのパワーを奪ってしまった。すなわち、診療報酬体系に乗っていれば生きていけるプロバイダー、その人たちを信用して安価で頼っていれば健康を維持できた患者・市民、お金が足りなくなればその都度公費が投入され、何とか回し続けることができた保険財政みたいなものを作ってしまった面はないか、という問いです。

 都市化政策や住宅政策も相まって、日本古来の、家族の力、地域のつながりの力を弱めた面がないか。「サービスが社会化」されたことでいい面もあるが、そういうものもつくり上げてしまったがためにエンパワーの逆、スポイルが起きてしまっている。スポイルはダメにするという意味ですが、これは非常に皮肉なパラドックスだと感じています。

 もっとも、今の厚労省もこのままでいいとは思っていないはず。現に、患者の意識改革を目指して、「上手な医療のかかり方」の検討会を開いたり、ポスターは炎上騒動を起こしたものの、その後粛々と「人生会議」の普及啓発に取り組んだりしているのだから。患者や市民も医療の「受け手」としてサービスを享受するだけでなく、主体的・能動的に関わっていく姿勢を重視しているのは、私の思いと同じです。

 ともあれ、誰もがフルパワーを発揮できるよう、目指すは個々人の潜在力開花。そのためのエンパワーです。日本人は、トップダウンではなく、個々人の力を大事にしながら、補い合ってきた国、社会です。人間観として、自分の持っている潜在力を最大限に開花させること、そしてそれが他者の役に立つこと。この基本線を取り戻して、世界に誇れるような少子高齢社会、健康社会づくりにチャレンジしたいと考えています。 


(タイトル部のImage:kanzilyou -stock.adobe.com)