前回は、日本でヘルスケア人材を育成し、その人材を核に世界展開を図るインド発企業の動向を見てきた。一方で、インドを舞台としてヘルスケア事業を育成しようと目指す日本企業も奮闘する。我が国の老舗物流企業として知られる鴻池運輸(大阪市中央区、代表取締役兼社長執行役員:鴻池忠彦氏)は、グループ会社であるカルナメディカルを通して、医療器材の市場に新風を吹かせ、インド初の物流拠点の構築を進めようとしている。鴻池運輸はどんな未来を描いているのか。現地でインド事業の育成に邁進する同社インド統括本部本部長で執行役員の天野実氏に話を聞いた。

インド初の医療物流拠点を構築へ

 2020年2月、鴻池運輸とグループ会社の鴻池メディカル、さらに商社の双日は、インド初となる医療物流センターの設立、運営事業に着手したと発表した。現在でも、インドではヘルスケア関連の物流は脆弱。大規模な医療器材のサプライチェーンがうまく機能していない。これから日本企業連合がサプライチェーンの強化に大きな貢献をしていく可能性もある。

 ポイントは、インド南部の主要都市チェンナイを中心とするタミル・ナド州による強い要望を受けて事業が進められたことだ。なぜ鴻池運輸がこうした支持を受けられたのかを見ると、過去9年間にわたる事業運営の経緯が浮かび上がる。原点には、鴻池運輸が仕掛けた、医療器材のカタログ(辞典)作りという一風変わったプロジェクトの存在があった。

 「最初は当社トップがインド市場の成長を受け、全社でインド事業の検討を始めたことだった。そこからインドで何ができるのかを考えた」と天野氏は振り返る。インド事業に着手したのは9年前の2011年。現地採用を中心に市場調査は始まった。天野氏自身も現地で日本の事業の延長線上にない事業の模索を始めた。

 現場に身を置く中で天野氏が気になったのが、既得権益が顕著にはなっていないインドの経済事情だった。「見えてきたのは、例えば、配車サービスのウーバーが早々に浸透していたこと。日本では、既存のタクシー業界との関係もあるので、なかなか利用できない状態はある。それに対して、ウーバーがインドでは当たり前のようになっていた」と言う。インドでは給与水準も低いため自動車の保有が難しく、シェアのニーズは高い。

鴻池運輸インド統括本部本部長兼執行役員の天野氏(写真:飯塚 寛之、以下同)

 インドならではの状況はヘルスケア分野でも見えてきた。天野氏は「医療機関では人件費は安い一方で、医療機器は高価で導入が遅れていた。では、シェアを進めてはどうだろうと考えた。鴻池運輸では日本国内では医療器材の滅菌を事業としている。例えば、医療機器のシェアと滅菌を組み合わせると、新たな価値を生む可能性もある。さらに、サプライチェーンを構築すれば、その先に事業化の目も見える」と振り返る。