「映像+5G+AI」が新しいヘルスケアの世界を作る

 従来のウエアラブルデバイスを使う方法に加えて、5Gあるいはアフターコロナの時代を象徴する「非接触」の流れが生まれている。「最近になって、非接触型の測定方法が続々と登場している」というのは、「人を測る」を軸にした交流コミュニティ「カンブリアナイト」を主宰するホオバル取締役の新城健一氏だ。

 非接触の主役は、間違いなく映像である。映像データを5G経由でクラウド上に送出してAI(具体的には深層学習)で分析、そこから異常を検知して通知する仕組みが確立され始めている。これには、高精細な画像を撮影可能な撮像素子(カメラ)の低廉化、そしてわずかな違いも自動判別できるAIの進化が貢献している。映像、5G、AIの組み合わせこそが、5G時代の新しいヘルスケアの世界だと言えるだろう。

 映像を使った取り組みとして新城氏が注目するものに、三井不動産、シスコシステムズ、Coaido(コエイド)の3社が2018年3月に実施した実験がある。街頭のカメラ、AI(人工知能)、ネットワークシステム、救命向け専用アプリなどを連携させることで、街全体そして関係者をつなぐことで「救命の連鎖」を実現しようというものだ。

三井不動産、シスコ、Coaidoが共同で実施した実験の概要(出所:三井不動産、シスコ、Coaido)
三井不動産、シスコ、Coaidoが共同で実施した実験の概要(出所:三井不動産、シスコ、Coaido)
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 この「連鎖」の具体的なフローは以下のようなものになる。まず、周囲に人がいない建物内で卒倒した人を、防犯カメラ画像が撮影、AIは不自然な転倒であることを自動検知する。その検知結果は、建物の管理者(防災センター)に通知され、防災センターから現場最寄りの巡回管理要員に対して急行を指示する。並行して、Coaidoが運営する救命ネットワーク「Coaido119」を通じて、救命スキル保持者に向けて支援を要請する。これにより、卒倒時から救命処理までの時間を最短化しようというものである。

 この実験の背景には、そもそも「転倒自体が誰にも認知されない」、認知されたとしても「心肺蘇生など適切な処理が施されなかった」ケースが多いことが挙げられる。総務省消防庁の『平成29年版 救急・救助の現況』によると、2016年に救急搬送された心肺機能停止傷病者は12万3554件。そのうち心停止で倒れた時点の目撃者がいないケースは4万3789件、目撃があっても救急隊が到着するまでに心肺蘇生が施されなかったケースは1万1215件に及ぶという。短時間での発見あるいは適切な処置を施すことにより、多くの命が救える可能性がある。

 別の例には、高齢者向け歩行支援サービスがある。歩行の状態を可視化することで、本人や指導員に対して正しい歩行を促すことができるというものである。この「歩容解析AI」を開発したのはエクサウィザーズ。AIを活用したサービスを通じて社会課題を図るスタートアップ企業だ。

 同社の歩容解析AIを使うと、高齢者の歩行動画をスマホなどで録画するだけで、歩行スピードやバランスなどを定量的に評価できる。感覚に頼りがちだった機能訓練指導員の判断を、定量化することでサポートする。高齢者自身にとっても、自分の歩行状態が可視化されることで、歩行の癖を客観的に知ることができる。転倒予防への意識を高めたり、リハビリを継続するモチベーションを向上させたりすることを期待する。

 ほかの例には、イスラエルのスタートアップ企業binah.ai(ビナー)が開発した表情分析技術がある。同社の技術は、カメラで撮影した頬の上部の皮膚領域の動画を分析することにより、撮影された人の生体状況を計測できる健康モニタリングソリューションを提供するというものである。具体的には、スマートウォッチでも採用されている、皮膚表面の微小血管の血液量変化を検出する光学技術を活用している。現時点で心拍数、心拍変動、精神的ストレス、酸素飽和度(SpO2)、呼吸数があり、近く血圧についても測定できるとしている。