5G(第5世代移動通信システム)が広がる2020年代、医療・ヘルスケアに関するスキルは一気に底上げされる。この底上げのため、5Gと並んでカギになるのはVR(仮想現実)やAI(人工知能)などの技術だ。これまで大人数で共有することが難しかった名医など専門家のスキルは、5GとVRを組み合わせることで多くの人が共有しやすくなる。さらにAIを活用すれば、専門家の知見の共有は、場所だけでなく時間の制約も超えられる期待がある。

5GとVRを使うことで、医療・ヘルスケアに関するスキルは底上げされる(出所:Holoeyes)

 5GとVR(仮想現実)やAR(拡張現実)をはじめとするXR(Extended Reality)技術の活用により、医療サービス品質はさらに向上する。「5GとXRは相性がいい。両技術の活用により、地域や所属組織など環境による情報格差を減らしたい」。こう語るのは、医師であり、医療向けXRシステムを開発するHoloeyesの創業者でもある杉本真樹氏だ。情報格差を減らすことによって技量格差の減少につなげるには、文字や画像、音声といった限られた情報だけでなく、動きや空間などの情報を体験そのものとして共有していく必要がある。情報の活用次第では、ベテラン医師と若手医師のスキルの差を小さくすることになるかもしれない。

 実際、ここ数年、医療の現場では若手医師や学生などのスキル向上を目的としたVRの活用が広がっている。VRシステムを開発するジョリーグッド代表取締役の上路健介氏は「2018年にNTTドコモ、ジョンソン・エンド・ジョンソンと『5Gによる遠隔リアルタイム医療研修VRの実証実験』に関する発表をして以来、手術を収録する仕事が増えた」と語る。同社が開発する、手術室常設型のVRライブ配信システム「オペクラウドVR」は、手術室内に360度カメラを設置することで、実際の手術の様子を執刀医目線の360度VR映像としてどこからでも見ることができるというものだ。

オペクラウドVRの映像(上)と遠隔から視聴参加している様子(下)(出所:ジョリーグッド)

 若手医師や医療機器メーカーの研究開発者などには「ベテラン医師の手術の様子を見てみたい」という潜在的なニーズは多い。しかし、実際に手術室で立ち会うことができるのは10人にも満たない。その10人程度にしても、執刀医の動きをしっかりと見ることができる「ベストポジション」に立つのは難しい。執刀医に近づくほど邪魔になるからだ。逆に、執刀医から遠いと執刀医の様子が分からない。VRを活用すれば、手術室に入室できる人数の制限を取り払うことができ、参加者全員が執刀医の視点で手術に参加できる。さらに、VRの活用には見学が困難な放射線使用下や感染症の治療現場でも活用できるメリットもある。

 上路氏によると、ここ数年、各種学会ではVRデバイスを活用したハンズオンの研修などでも使われている機会が増えているという。研修向けシステムでは、講師が全員のゴーグルを操作できるため、受講者全員が共通の体験をしながら研修を進行できる。