Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの一つが、未来のワークプレース「Beyond Workplace」だ。

テレワークの普及でオフィスから解放されたワーカーが、まちなかでワークスペースを求めている。そんなニーズを取りこむために始められた、まち全体をオフィスにすることを目指すワークプレースのマッチング支援サービス、「NINJA SPACE」が話題を呼んでいる。サービスを提供するのは、三菱地所と三菱地所プロパティマネジメント。2021年2月から、東京・丸の内エリアを中心にサービスの提供に乗り出した。日本を代表するオフィス街で始まったこのサービスは、どんなものか。NINJA SPACE誕生の背景と今後のビジネス展開について、プロジェクトを手掛ける三菱地所新事業創造部の那須井俊之氏に聞いた。

三菱地所新事業創造部の那須井俊之氏(写真:川田 雅宏)
三菱地所新事業創造部の那須井俊之氏(写真:川田 雅宏)
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 出先でひと仕事終え、移動前に打ち合わせしたり、残務処理やメールチェックしたりする場合、どうするか。目に付いたカフェを利用するか、見当たらない場合にはGoogle マップで、「カフェ」を検索したりする。

 滞在時間や仕事内容によっては、電源やWi-Fi環境は必須。使い慣れた大手カフェチェーンやファストフードであれば、それらの有無の見当はつくが、そうでない店舗ではそこまで望めない。どこに行けばいいのか──。

 ワークスペースのマッチング支援サービスは、そんなとき役に立つ。三菱地所と三菱地所プロパティマネジメントが共同開発した「NINJA SPACE」は、飲食店やコワーキングスペースといった提携施設の空きスペースと利用者の希望スペースのマッチングを支援するものだ(図1)。

図1●「NINJA SPACE」は「空きスペースを活用したい」というニーズと「テレワークの場所が欲しい」というニーズをマッチングする(資料提供:三菱地所)
図1●「NINJA SPACE」は「空きスペースを活用したい」というニーズと「テレワークの場所が欲しい」というニーズをマッチングする(資料提供:三菱地所)
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 利用者にとっては、近くのワークスペースを手軽に見付けられる。しかも、その日の気分や仕事の内容に合わせてストレスなく働ける環境を自ら選ぶことも可能。時代に見合った働き方を支えるインフラサービスとも言える。

 前提にあるのは、Web会議は定着するもののリアルな対面はなくならないという見立てだ。那須井氏は「短時間の打ち合わせや遠方での打ち合わせはWeb会議に置き換わっていく一方で、オープンイノベーションの取り組みや新ビジネスの創出に向けたブレーンストーミングには対面が欠かせない」と見る。

 「NINJA SPACE」を利用するには、まず専用アプリケーション上でプロフィールやクレジットカード情報を登録しておく。まちなかで「人数」「利用時間」「オープン席または個室」を設定すると、500m・1000m圏に立地する提携施設を「絞り込み・検索」できる。条件に合う施設があれば、「マッチング・決済」する、という手順だ(図2)。

図2●「NINJA SPACE」の利用者側専用アプリ画面。対応OSは現在、iOSのみ。2021年初夏頃には、Android OS対応のアプリもリリース予定(資料提供:三菱地所)
図2●「NINJA SPACE」の利用者側専用アプリ画面。対応OSは現在、iOSのみ。2021年初夏頃には、Android OS対応のアプリもリリース予定(資料提供:三菱地所)
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多様な空間を一元的に選べるプラットフォーム

 2021年2月22日から、三菱地所のおひざ元と言える大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区でプレローンチを開始。専用アプリの動作を確認する一方、3月いっぱいまでは同地区にあるカフェやコワーキングスペースなど提携施設10カ所(写真1)で利用者ニーズを検証する。那須井氏は「プレローンチ開始から1週間、営業日5日間でアプリ登録者は約500人。一定のニーズは見込める」と期待を寄せる。

写真1●提携施設の例。写真左は大手町ビル1階カフェ・レストラン「KAITEKI CAFE」。右は、東京交通会館6階コワーキングスペース「GOODOFFICE 有楽町」(写真提供:三菱地所)
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写真1●提携施設の例。写真左は大手町ビル1階カフェ・レストラン「KAITEKI CAFE」。右は、東京交通会館6階コワーキングスペース「GOODOFFICE 有楽町」(写真提供:三菱地所)
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写真1●提携施設の例。写真左は大手町ビル1階カフェ・レストラン「KAITEKI CAFE」。右は、東京交通会館6階コワーキングスペース「GOODOFFICE 有楽町」(写真提供:三菱地所)

 利用者のターゲットは、約28万人と言われる大丸有地区のオフィス就業者とビジネスで同地区を訪れる来街者だ。「当社では、地区内のワーカー向けにエリア情報やクーポン機能を提供する『update! MARUNOUCHI for workers』という会員制のWebサイトを運営している。会員規模は数万人。そこを通して『NINJA SPACE』を紹介している」(那須井氏)。

 ビジネスのカギを握るのは、提携施設の数やバリエーション。そこが貧弱では、マッチングは成立せず、結果として利用者の伸びは滞る。しかし、そこにも一定のニーズは確実に見込める、と那須井氏は見る。

 背景にあるのは、ワークスタイルの多様化だ。働き方改革の旗印の下、働く場所の多様化が加速する中、デベロッパーがサテライトオフィスの開発・運営に取り組むだけでなく、例えばカラオケボックスのような異業種もワークスペースの提供に乗り出し始めた。

 三菱地所自身、オフィスを供給する立場上、ワークスタイルの多様化に無縁でいられない。オフィス領域でも住宅領域でもそれを念頭に置いた開発に取り組み、例えば個室型ワークブース「テレキューブ」のサービス提供事業者に資本参加する。

 そこに、新型コロナウイルス感染症の影響がじわりと加わり、飲食店やホテルは売り上げ確保に向け、ワーカーの取り込みを狙う。那須井氏は「新事業開発のタネとしてテレワークに着目する中、これらの多様なスペースを一元的に選べるプラットフォームを構築しようという結論に行き着いた」と、新サービス開発の経緯を明かす。

 多様なスペースを一元的に選べるプラットフォームは、なぜ必要なのか。「例えば飲食店からすると、そこをワークスペースとして使おうとする顧客を受け入れたくても、顧客側は遠慮して大手カフェチェーンなどに流れがち。また、地階や2階に立地する飲食店は、路面店に比べそもそも選ばれにくい。プラットフォーム上ではそうしたフロアによる差をなくすこともできる」(那須井氏)。

施設側がデメリットを感じないビジネスモデル

 施設側が提携のデメリットを感じないように、ビジネスモデルには工夫を凝らす。

 一つは、サービス利用料をゼロに設定できる点だ。提携施設側が利用者から受け取る料金にはサービス利用料と飲食料金の2種類がある。サービス利用料はクレジットカードでの決済時にいったん「NINJA SPACE」側が受け取り、システム利用料を差し引いた後、提携施設側に振り込む仕組みだ(図3)。サービス利用料をゼロにするということは、利用者からは飲食料金だけを受け取るということ。この場合、「NINJA SPACE」へのシステム利用料は発生しない。

 もう一つは、「NINJA SPACE」用に席を確保しておく必要がない点だ。提携施設側はタブレット端末やスマートフォンに施設側専用アプリをダウンロード。利用者からマッチング希望を受けたときに、自動または手動で対応する。施設内が混雑してきた段階で手動対応に切り替えれば、施設内の様子を基に希望を受け入れるか否かを判断できる。

図3●「NINJA SPAECE」のビジネススキーム案。「NINJA SPACE」側は、利用者が決済する「サービス利用料」から「システム利用料」を差し引き、その残額を「スペース提供料」としてスペース提供者側に支払うことになる<br>※三菱地所・三菱地所プロパティマネジメント作成の資料と取材を基に作成
図3●「NINJA SPAECE」のビジネススキーム案。「NINJA SPACE」側は、利用者が決済する「サービス利用料」から「システム利用料」を差し引き、その残額を「スペース提供料」としてスペース提供者側に支払うことになる
※三菱地所・三菱地所プロパティマネジメント作成の資料と取材を基に作成
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(写真:川田 雅宏)
(写真:川田 雅宏)
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 那須井氏は「提携施設は利用者を通常の顧客と同じ感覚で受け入れることができる」と、「NINJA SPACE」の持ち味を強調する。さらに大丸有地区の開発や運営・管理を担う三菱地所と三菱地所プロパティマネジメントが、地区内のオフィス就業者や飲食店との間でネットワークを築けている点も、サービス展開上の強みと話す。

 提携施設の拡充に向け、目下、営業活動を展開中だ。「ビジネスモデルの工夫が評価され、反響は上々」と那須井氏。大手カフェチェーンからの問い合わせもあるという。集客に課題を抱える個店に頼りにされそうなプラットフォームではあるが、将来は大手カフェチェーンとも手を組む可能性が見込まれる。

 2021年4月以降は、大丸有地区でのサービスを続ける一方で、提供エリアを広げる予定だ。「横浜や池袋など、横浜ランドマークタワーやサンシャインシティといった当社の強みがあるエリアを中心にじわじわ広げていきたい」(那須井氏)。

キャンピングカーもワークプレースの対象

 提携施設を拡充しエリアを広げていくのに伴い、プラットフォームには利用者の働き方に関するデータが蓄積されていく。その活用はどう考えているのか。那須井氏は「働き方の変化をデータとして収集できると期待している。個人情報保護法上の問題がない範囲で、まちづくりの役に立てたい」と答える。

 プラットフォームが構築されると、利用者の利便性が高まる一方で、提携施設の多様性に一層弾みがつきそうだ。これまでワークスペースとして一般に認知されていないスペースでも、プラットフォームに載れば、誰もがワークスペースとしても認知する大手カフェチェーンの店舗と同じ土俵に立てるようになるからだ。

 那須井氏がワークスペースとして今後の可能性を感じる空間には、例えば自動車がある。

 三菱地所は3月8日から12日までの5日間、1日当たり3時間半にわたって、丸の内仲通りにとめたキャンピングカーをワークスペースとして活用する実験をCarstayと共同で実施した(写真2)。利用時間は1組当たり最大1時間。企業視察を除き、9組が参加したという。「遮音性があり、ワークスペースとして機能する。非日常感を味わえるため、身近な場所でワーケション気分に浸れ、リフレッシュできるように感じた。利用者ニーズの見込める場所に移動させられるのが、面白い」(那須井氏)。

 「NINJA SPACE」は現在、有人スペースでの導入を念頭に置いてシステムを開発しているが、それを無人でも導入できるように改め、さらに利用者のアプリ上で解錠を可能にすれば、前出した個室型ワークブース「テレキューブ」やキャンピングカーなど、無人のスペースとのマッチングにも道が開ける。

 プラットフォーム上でマッチングできるワークスペースのバリエーションが増えれば、ストレスなく働ける個別最適の環境に出合える可能性が高まる。利用者には利便性だけでなく、快適性も提供できるサービスになっていくことが期待される。

写真2●キャンピングカーをワークスペースとして活用する実験の様子。2021年3月8日から12日まで、丸の内仲通りで実施。定員は本来4人だが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、実験期間中は2人までに絞り込んだ(写真提供:三菱地所)
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写真2●キャンピングカーをワークスペースとして活用する実験の様子。2021年3月8日から12日まで、丸の内仲通りで実施。定員は本来4人だが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、実験期間中は2人までに絞り込んだ(写真提供:三菱地所)
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写真2●キャンピングカーをワークスペースとして活用する実験の様子。2021年3月8日から12日まで、丸の内仲通りで実施。定員は本来4人だが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、実験期間中は2人までに絞り込んだ(写真提供:三菱地所)

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)